天の章

◇人巫女のお話

情報の神様は、昔々ただの人の巫女さんでした。
さてさて、どうして神様になれたのでしょうか?

これはどこかの小さな世界の人々のお話。
それはいつしか大きくなる人の魂のお話。

2016年8月25日 著

それは昔のお話し…
戦乱の世の終わり……
とあるお殿様が国を納めはじめたときに、その村は戦乱のなかでもひっそりと平和な日々を送っていた。

時和(トキワ)村……
そこは深い深い山の中腹あたりにあるどこにでもある田舎の村。
緑の美しい田んぼが段を連ね、野草の花が咲き乱れていた。
家々はふるい茅葺き屋根の造りで、昔ながらの大和の国を思わせる。
そんななか…
「天魔様っ!」
ひとつ、瓦屋根に丈夫な柱で作られた神社があった。
この時和村で唯一の神社……
それは時和神社。
山の中にあるこの村でなぜか「海」の姓をもつ海川ヒロウミカワの一族が代々継いでいる神社だ。
海川はその血筋に不思議な力を持っている。
「あ………小春……おはよう♪」
名前を呼ばれ、振り返ったのは海川の5代目・海川ヒロウミカワ 天魔テンマだ。
「天魔様、土山のおじいちゃんが、白菜があまり育たなくて困ってて、お祈り、してもらってもいいかな?」
小春と呼ばれた6歳の少女はそういうと天魔の手を引き神社の外へ連れだそうとする。
「……少し、待って……小春……御母様に、報告………しなきゃ…」
「あ、そうだったっ!!ごめんね!?小春、鳥居のところで待っているから!」
そういうと小春は一人、先に外へ向かう。
そんな小春を見送ると、一人嘆息。
「御母様……起きてるかな……」
フワッと広がる着物は、琉球国を連想させる、華やかで美しいもの……
翻すその軌道すら目を奪うものがある。
そのまますこし緊張した面持ちで天魔が向かったのは、外装では想像できない金の金具と装飾が施された大扉。
「…………御母様……天魔です」
そう宣言すると、ノックをすることもなく、扉を開く。
見た目に反して扉は軽く、天魔の細い腕でもすんなりと開いた。
なんの感情もなく部屋にはいると中央に設えられた、ベットの傍らに腰を下ろす。
「御母様、土山の翁を救って参ります…………」
「……あの老いぼれの願いなど聞かんでもよい。ただ妾の傍らにおれば、天魔はよいのだ…」
ほっそりと、天魔よりも細く弱々しい腕が天魔に伸びる。
だが…………
パシッ!
「………………触れないで………」
「………………………………………………」
腕を払うと立ち上がる。
「力に酔いしれた、貴女と同じにしないで……」
そう言い捨てると、部屋を後にした。

~時和村・山道入り口~
そこは時和村に続く山間の道の入り口。
緑豊かに豊富な自然の中、しかし、彼は一人佇んでいた。
…………そう、生き物は彼しか生存していなかった……
「旅人はこの先の時和村に………急がないと……」

「小春…お待たせ………」
ヒラヒラと着物の裾をなびかせながら、鳥居の下の小春に駆け寄る。
「ううん、大丈夫!どうだった?大巫女様…」
「……………あんなの……人でなし……」
「……そっか……昔はあんなに優しかったのに………」
大巫女…それは天魔の母・時雨シグレのことだ。
海川の女性は代々巫女としてその能力と共に、村の人々に崇められている。
なぜだか能力は女性にしか受け継がれることはなく、なかでも時雨は時折、未来を見ることができる「予知夢」を見ることができるほど、その特殊な能力は有能だった。
あるときには水不足になるから、水を風呂桶に溜めておけと言伝てればその年に農家は稲や野菜を枯らすことはなかったし、神社の隣の家の洗濯物が飛ぶと知れば家の中で乾かすことを進めたり、と村人と友好な関係を築いていた。
しかし、あるとき時雨は引きこもるようになった…
もう二度と外になど出ない、と…
ここにいれば自分だけは助かる、と………
それからというもの、時雨は部屋に天魔を居座らせようとする。
「…どんな夢を見たか……わからない……けど…自分だけ生きるなんて……ズルい…………」
ぽそりっというと鳥居をくぐり村へと足を進める。
「あ、まって!天魔様っ!!!」

===

村は人口300人程度と小さく皆、庶民で農民である。
戦乱のなかでも辺境の地とあって訪れる者も少なく、また去るものも少なかった。
そのせいか、皆知り合いで家族のようなものだった。
「あらぁ…天魔様、こんにちは♪」
「こんにちは……瀬川さん………(ニコッ」
「今日もお祈りかい?」
「……うん…」
「天魔様はすごいねぇ……あぁ、そうだ、帰りに大根あげるからよってね♪」
「…………ありがと…瀬川さん♪」
今日は大根の煮物かな……
そんなことを考えながら歩を進める。
一歩鳥居の外に出れば、皆、親切にしてくれる。
そして、大切に扱ってくれる。
そんな村人がすきで天魔はいつも村に赴いていた。
「あ、見えてきた!土山のおじいちゃん!」
「おぉ、小春!天魔様を連れてきてくださったのか!」
驚いたように土山は小春と天魔の元にくる。
「土山さん……こんにちは…………早速だけど…小春に聞いた話…白菜って……」
「はい、最近暖かい日が続いててね…育ちにくくなっているみたいで困っているんだ…お願いできるかな………?」
遠慮がちにいう土山に天魔は微笑む。
「えぇ、そこまで…案内……して?」

「ここです、天魔様」
ポツポツと細切れに植えられた白菜たちは確かに小振りで美味しいかもしれないがボリュームがないように見えた。
「少し……元気ないかな…?」
「えぇ……ちゃんと水もやっていますし…」
「わかった………離れてて?」
ニコリッと笑うと着物の裾が付くのも気にせず地面に座り込む。
そのまま手を合わせ、握ると……
ふわっと髪が空中に舞い、淡くエメラルドの光に染まる…
「わぁっ………」
小春が感嘆の声をあげるなか、今度は白菜が同じ色に輝きぐんぐんと成長をしだす。
天魔の能力は「成長」。
しかも、それは感謝の気持ちからくるものらしい。
無理に無関係なものは成長させることはできないらしく、家であまり時雨を思っていない天魔はその能力を自宅の畑では発揮できないでいた。
海川の能力は代それぞれで初代は風を呼ぶことができ、二代目は雨を呼ぶことができた。
三代目は水脈を見つけることができ、四代目・時雨は未来を見ることができた。
それぞれが独特の能力で村人を救ってきたのだという。
そんななかで、海がなく食べるものが穀物や野菜しかないこの山のなかでは「成長」という能力は非常に大切にされていた。
「…………ん……」
ふぅ、と息をはき、黒髪へと戻った天魔は立ち上がる。
目の前にはもっさりと育った白菜が並んでいた。
「凄い……天魔様っ!!ありがとうございます!!」
がばっと頭を下げる土山。
そんな土山にビクつく天魔。
元々あまりコミュニケーション力の低い天魔は、かなりの引きこもりでコミュニケーション力も高くない。
しかし、時雨のようにはなりたくないし、村人のために何かしたいとおもう天魔はなんとかそれを克服しようと奮闘している最中だった。
「土山のおじいちゃん、天魔様ビックリしてるよ?」
苦笑している小春はそんな天魔に慣れているのかよしよしと背中をさすっている。
天魔より年下なのに…

「だれかーっ!!!」

突如、少し離れたところから叫ぶ声があった。
ふっとそちらを見る三名。
「なにがあったのか………はて、私が見てこよう…」
ゆっくりと起き上がり声の方に向かう土山。
「なんだろう…………?」
「なんだか普通な感じではなかったよね?私も見てこようかな…?」
「私も………」
「駄目です。天魔様はお家に帰っていて?天魔様はこの村に必要なんだもん。なにかあったら怖いから…わかった…?」
年下ででもとてもしっかりしている小春にここまできっぱりと言われてしまったら天魔はなにも言い返せない。
仕方なくコクリっと頷き家に向かう。

これが始まりだとは知らずに……

===

変化はすぐに起こった。
それは小春からの手紙……
「これは………」
内容は簡潔。
[疫病が蔓延っているから、村には来ないで下さい………お願いします………
小春]
「疫病……………」
そう呟くと鳥居から村を見下ろす。
村人はいつも通り……とはいかず、心なしか外出している村人は少く出歩く人も元気がないようにみえた。
「………小春の…お願い…………どうしたら、いいの?」
戸惑いつつもその小春の願いのとおり天魔は村には向かわなかった。
その間、天魔は神社の掃除をしたり、お賽銭を整理したり、一人でこなしていた。
だが数日たったある日、あることに気づく。
「誰も……こない……?」
あの小春の手紙がきて数日、この神社に訪れる人はパッタリといなくなった。
それだけではない。
いつも常連で来てくれているおばあちゃんや子供たち…
そして手紙を届けてくれる配達の人まで来なくなっていた。
さすがにこれはおかしいと、天魔は時雨のもとに報告に向かった。

「御母様……」
「………とうとう、来たのじゃな……」
「……?」
部屋に入るとそう呟いた時雨はすでに全てがわかっている顔をしていた。
「……疫病じゃろう……村に旅人が来おったのだ…」
「……」
「その旅人は疫病を持っていたがゆえに旅をしていた……
疫病をばらまくためにの……」
「っ……!!!!?」
「全く迷惑な話じゃの……」
ふぅ、と息を吐くと驚きで言葉がでない天魔をベットに誘う。
「だから言うたのじゃ…妾はここを出ぬ、とな?」
「防げないから……出ない、と…?」
「そうじゃ…最初は辛いがの…妾に村を救う力を持たなかったからの……」
ふらふらとベットに座り込む天魔を時雨は抱き締める。
「………妾は逃げることを選んだ……じゃがの天魔…お主は自由じゃ……妾は止めぬ………」
スッと身を引き目を合わせる。
「………………」
「何よりお主は……神に愛でられし子………妾には育てきれぬ……」
そういって儚げに笑う時雨に天魔はなにか嫌な予感がした。
「さぁ……行くのじゃ……天魔……お主には大切な友がおるのだろう?」
そういうと部屋の裏口の扉を開ける。

天魔は訳もわからぬまま、時雨に手を引かれると外に投げ出される。
「行け……去るのだ…………」
パタリッ………静かに閉まったその扉を天魔は凝視した。
そして……

バンッ!!!
『見つけたぞ………お前が…オマエガ主かぁぁぁ!!!!!』

中から、勢い良く開く扉の音に、聞いたこともない男の声があった。
『お主が…疫病を広める旅人か……』
静かな時雨の声。
まるですべてを悟っていたように……
『オマエ以外の村人は……逝った!!!
あとは……貴様だけ……貴様だけだぁ!!!』
『……妾になんの恨みがある…?この村が何をした?』
『オマエの能力は聞いている!そして、ここが滅べばその能力は俺のコキョウの物トナルっ!!!』
『そんなものはただの言い伝えであろう?』
なんのことを話しているのだろう……?
男の言葉は疫病のせいか滑舌がハッキリせず、たまに片言でニュアンスもおかしい……
まるで狂言を聞いているように。
そこから伝わるのは恐怖感。
どうしようもない恐怖感に天魔は腕を抱えた。
『どうでもイイ!貴様を消せば、俺はその無限のチカラを手に入れることがデキル!!!』
その瞬間…

ドサッ…

重いものが倒れる音がした…
「……っ……………!!!!!!!?」
“何か”なんて想像しなくてもわかる。
天魔はふらりっ、と立ち上がりその場から逃げるように村の方へと降りていった。

「…………………………………____________」
村は予想以上の状態となっていた。
今まで少ないながらも村人で賑わっていたメインの市場では気だるそうに突っ伏した人、もたれ掛かる人、倒れた人………
さまざまな状態の人々は皆

息をしてはいなかった…………_________

「どうし…て…………………」
神社からは元気がないにしてもなんとか営みを続けているように見えていた。
いや、もしかしたら、見せていた、のかもしれない……
そんな村人の優しさに、天魔は涙を流す…
「…………小春に………小春を探さないと……」
自分以外、生きる存在を見つけられないなか、それでも慕ってくれた小春を、天魔は探しに村に足を踏み入れる………
しかし…………
「……はぁ………………………はぁ………」
疫病はよほど強力なものと思われた。
何せ村人はほとんど生きていないにもかかわらず空中には疫病がまだ住み着いていたのだから……
いままで大切にされ、病などかかったことのな天魔にとって、この疫病からみれば一日で息の音を止めることは他愛のないことだった。
いつしか、足は鉛のように重く、呼吸は荒れ、視界は揺らめき、意識は朦朧としていた。
ふらっと……とうとう倒れた時だった…

「大丈夫かい…?」

ふんわりと、優しく、抱き抱えられた。
「すまないな……俺がもう少し早くここにたどり着けたのだらばこの村を救うことができたというのに……」
そういうと、天魔の額に手を当てる不思議な男性…
視界がハッキリしないせいで良く見えないが、銀色のような長い髪がまるで7色に淡く輝き、美しい赤い両の目はまるでなにか宝石の類なのではないか、というほどだった。
そんな彼に天魔はいつの間にか、こう呟いていた。

「たすけ………て……………」

********************
「あれが、君の救った村…時和村だ………」
「……………………」
上空、涼しい風が吹き付ける中、天魔と彼は時和村を見下ろしていた。
村人は活気があり、子供たちは楽しそうに走り回っている。
「これで………いい………………」
そんな中、以前の時和村にあった物が消えていた。
「…………本当に良かったのかい…?」
「…………うん…………私は……恵まれているから……」
うっすらと涙を浮かべるが、グッと堪える天魔。
「願いは聞きうけた……今度は俺のお願いを聞いてくれないかな……?」
7色に淡く輝く髪を揺らしながら問いかける彼を天魔は見上げる。

「我が家族になってはくれないかい?テンマスティ………………______」


~完~

引用元:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7170574

◇上神殿と地下牢獄~堕ちた存在~

2016年8月25日 著

そよそよと部屋に心地よい風が入ってくる。
明るい空が覗くその窓を、テンマスティはぼんやりと眺めていた。
部屋は白を基調に統一され、金のアンティーク調の金具が気品を醸し出している。
目の前に置かれた机には可愛らしい花を模したテーブルランプに羽ペン。
そして、積み重なる書類の山、山、山…………

「はぁぁぁぁぁ~………………………」

かろうじて残された机の空白スペースに突っ伏し、ため息を漏らすテンマスティ。
「まさか、神様というものがこんな雑用までこなしていたなんて、現代の人間達が聞けば驚きものですよっ!」
ゆっくりと体を起こすと書類を見下ろす。
◯ウンページで例えるなら10~12冊分ぐらいだろうか…
まさか、まさかこんな人生になろうとは……
時和村で救われてから数百年の月日が経った。
何がどうなったのか今でも曖昧ではあるが、あの疫病は人間の体では完治はとても難しい病だったのだという。
その時に、提案されたのはこれだった。

『村を元通りにする代わり、海川の存在を初期化する』
というものだった。

なにより、まず、自分を救いにきた彼がまさか神だった何て言うのは今となってはどうでもよかったりする。
問題なのは存在を初期化されるとき、今あるこの自分の魂を家族として受け入れる、なんて家族関係を説明するなら面倒この上ないポジションとなってしまった。
なにより、その素質があるだのと言われていきなり神様にさせられたり、物凄い力を入れられたり、とそれはもうよもや自分ではないように思ってしまう。
「怖い神様もいるからって喋れるようにしてくれたのはいいんだけど…」
今では天界の情報処理担当。
どの世界にもズルく楽してやろうと言う者はいるようで違反やサボりを見かけるたびに注意していたらいつのまにか「情報の鬼」だのと恐れられるようになってしまった。
本当に頭の痛いことである。
そして一番頭の痛い事例は…………
部屋の片隅で黒いなにかが丸まっている。
黒、というよりは闇色で、決して禍々しくはないが、天界にあるべきでがない者だった。
「……………いつまで、そうしている気なんですか…?」
呆れたように声をかけると、ピクンッと反応し片目でこちらを見やる。
「テンマが許してくれるまで…」
じーっと、こちらを見つめる紅色の瞳はうるうると潤んでいる。
彼こそがこの世界に自分を誘った人物だ。
そして現在進行形でお説教の真っ最中である。
「どこでなにをどうしたら、白から黒になって、天が魔になって不明が意味不明になるのですか?」
そんな潤んだ瞳に負けじと睨みを効かす。
こうでもしなきゃ、反省もしないだろうから…
「この約480年の間にどんなことがあったかなんて聞きもしませんけれど、死神になるのはいただけませんね?」
「…………………むぅっ……………」
そんな睨みを口を尖らせて迎え撃つ。
いや、だから違うんだって…
「どうでもいいですけど、これからどうするんですか?まさか死神のままなんて…」
「俺はそのつもりだよ………そうじゃなきゃこのまま天界に来ることはしない………」
尖らせていた口からめちゃくちゃ真剣な答えが返ってきた。
さすがになんと返していいかわからず戸惑っていると…
「………………俺は別に嫌われても構わない…むしろ…………自分の作り上げたことに対する責任がある………」
「………責任………」
「………テンマが気に負うことじゃないさ……」
そういうと彼は立ち上がり、扉に向かう。
「…テンマの安全は俺が保証する…」
「ちょっ………」
そのまま廊下へと歩を進める彼……
「ヴォッドっ……………」
そんな彼を、テンマはただ見送ることしかできなかった………

===

「テンマちゃん、まだ怒ってるの…?」
「なにがですか……?」

大好きな夕食の時間…変換するなら書類の束から唯一開放され、好きなものを好きなだけ頬張れる至福のとき。
大広間にたくさんのテーブルがならび、色とりどりの食べ物が各テーブルごとに決められたテーマで統一されたなかに魅力を醸し出している。
ここは天界の大神殿の大広間。
親睦の場とも言われ、たくさんの神々が序列等関係なく食を一緒にすると言うパーティーのようなもの…。
「なにがって、ヴォッドちゃんのことよぉ~」
ゆるーい口調でそういいながらフォークを揺らすのは、女神・ユピネル。
天界にざらにいる「女神」のなかで恐らく一番ゆるく、人間味のある女神だろう。
決して戦闘要員などではなく、その神としての位置を言うならテンマスティの助手、のようなもの。
テンマスティの任された任は情報処理。
その名の通り、情報を司る、操る能力で例えるなら年齢だって性別だって自由自在に”書き換えてしまう”ことができるのだ。
そしてその情報を”記憶”するのがユピネルであり、ユピネルがいなければテンマスティの能力は成り立たないのである。
「あぁ…………あの、死神ですか……」
呆れたように唐揚げを頬張ると空いた椅子にドカリッと座る。
「別に怒ってはいませんよ?いませんけどね?その理由を語らない、と言うのは問題なのではありませんか…?」
もぐもぐとさらに唐揚げを入れ込みながら憤慨するテンマにユピネルは苦笑する。
「まぁ、死神さんにも、それなりの理由があるのでしょう……きっと……」
そんなことを言いながらサンドイッチを皿に盛るユピネル。
「それなり、って……あんな自由人にそれなりとかあるんですか…?」
「テンマちゃんは、知らないものねぇ……」
ほわーん、とポテトをつまむとはむっと、食べるユピネルは続ける
「あの人、好きなことを好きなようにやっているように見えて、いろいろ考えているのよ…?」
「………………」
ユピネルに言われなくても、わかっている。
そんなこと、言われなくても………
「………まぁ、当分は自ら檻に籠るみたいだし、話してみてもいいんじゃないかな~?」
「えっ………?」

肌寒く、湿気でじめじめと気味の悪い雰囲気をかもしだす地下廊下。
ここは天界の大神殿の地下。
通常、天界の罪人が地獄へと落とされるのをただただ待つだけの場所。
今までこんなところに縁など当然なかったテンマは不安ながらにその廊下を進む。
ユピネルの話によると、あのあと部屋を去った死神は天界にいるべきではない存在ではあるものの、実質”いなくてはできない仕事”もあるのだ。
そこで、選んだのが地下の牢獄なのだという。
わざわざそんなところで仕事をしなくても、とは思うがここの神殿で雇われた天使達は皆、天界の普通の民なのだ。
そんな天界の民からみて、大神殿のなかで悠々と歩き回る死神など恐ろしいものでもあるし、信頼にも欠けてしまう…ということで、自ら牢獄を選んだのだと言うのだが……
「だからって自ら鎖までつけるなんてただのMではありませんか…」
「第一声がそれかよ………」
そこは特別設えられたような広い牢で6畳ほどの広さがあり、中央には大きな机と椅子が、そこから天井に首輪、壁から手枷、床から足枷、と見事に罪人そのものだった。
「まぁ、あなたが仕事をせず逃げ出さないように、という意図もあるでしょうけどね?」
にやにやと、してやったりと笑う。
ここにテンマがつれられて、数年でまたどっかの世界に飛び立ってしまったのだ。
今のうちにしっかりと自分のありどころを事細かに問いただしたいところだ。
「それには及ばんよ……大体聞きたいことは検討ついてるしな……」
牢獄だというのにたくさんの書類の山をさらさらとこなしている死神は、ふぅ、と息をつき眼鏡を外す。
出会った頃は両目とも見えるちょうどいい長さだった銀の前髪も今では左顔面を隠す黒い前髪で少し不気味である。
そして気品のあった言葉遣いは面影は残すものの悪びれてるようにも感じる。
「では、話していただきましょうか…?」
「…………………死神になった経緯については語るつもりはない…」
「……………」
「だが、決して悪に転がった、とかそういうのではない、ということだけ伝えておく…」
一番聞きたかったことを最初に話す気はない、といわれては面食らってしまう。
「次にこの顔面だが……」
ゆっくりと前髪をかきあげると…
「っ…!!!!!!!!!!」
以前はまるで白磁のように美しかった肌には痛々しい赤く爛れた火傷の後が広がっていた。
そして、目も負傷したのか銀の機械的な義眼が物騒に埋め込まれていた。
「…………これで説明はいらないだろう?…」
あまりのことに言葉を忘れる。
「まぁ、それもこれも………」
そういうと、パチンッと指を鳴らす。
「こ…これは…………?」
深いエメラルドに輝く宝石が散りばめられた銀細工の鍵が目の前に現れる。
「俺の部屋の鍵だ……テンマスティ、君に託すよ………」
ニコリと微笑む死神…
「俺にはまだやらなければならないことがたくさんある……だから君に預けるんだ」
「そ、そんないきなり………」
戸惑うテンマに”言霊”は容赦なかった。
『お眠り…テンマスティ』
「…………っ…」
悔しかった…
だけど、これに抗う術をテンマは知らない…
そのまま、意識は………遠退いていった……………________

===

小鳥の囀ずる声が、朝を伝えてくる。
差し込む朝日を受け、テンマは目を覚ました。
「…………………………?」
一体なにがあったのか、理解するまでにはかなり時間がかかった。
「あ…………」
手には、あのときの鍵が大切に握られていた。
そういえば、死神は……
「あ~、情報神さまぁ~、やっと目覚めましたぁ~?」
「!!!!!」
いきなりかけられたことばに飛び起きるテンマ。
「そんな驚かなくても~……………1週間まるまる眠り続けた情報神様を看病してたじゃありませんかぁ~」
はぁー…と、いかにも現代風な言葉でゆるーく喋りかけてくるこの天使は天界の門を守護する星天使・ヴァンデミアトリクスだ。
通常、普通の天使はこの神々の住まう上神殿に出入口することは出来ない。
だが、星天使はその上神殿で神々の世話をすることを許されている。
「ちょっと待ちなさい、1週間って……」
そんなことより、目を白黒させるテンマスティ。
「あれぇ、知らないんです?なんだか知りませんけど情報神様、ずぅーっと、眠ってたんですよ?大好きなご飯を食べにもいかず、です」
「え……………いや、ご飯は余計よ…あ、死神は…?」
「あー、生命神様なら情報神様のお仕事を疾風のようにこなして下界に降りちゃいました」
「はぁっ!!!!!?」
ガバッと毛布を剥ぐと部屋から飛び出し、仕事部屋として割り当てられた「情報監理室」へと飛び込む。
「っ………………………………_____」
そこらじゅうに溢れ返っていた書類は消え、涼しく清らかな風がカーテンを揺らしていた。
呆然としながら机に向かう…と
「置き手紙………?」
羽ペンで飛ばないよう押さえられた紙が1切れ………
そこには………

『ごめんなさい…………
そして、ありがとう…………』

「……………」
なんてことはない文章。
ただ謝罪と感謝の二文。
その筈なのに、テンマの瞳からははらはらと涙が溢れていた。

「一番居場所がないのは…貴方ではないですか…………」

今日も天界は、いつもどおり透き通る青空が広がっていた……___________

引用元:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7170603

◇異人間と異世界

2016年8月26日 著

「ちょっ!!!!情報神様、本気ですかっ!?」
「私が嘘偽りを語ったことありますか?」
「いえ……って、そう言うことじゃなくてっ!!」
ドタバタと慌ただしく廊下を歩くのは、星天使・ヴァンデミアトリクスと情報神・テンマスティだ。
「私が言いたいのはですね………」
すると、テンマの腕を掴む。
「っ!!」
「いいですか?ここは人間界じゃないんですよぉ?雲の上にある天界です。そして情報神様は上位神属…情報神様がいなくちゃ天界は回らないのですよぉ?」
じっと、見つめるヴァンデミアトリクスの視線にテンマは耐えられず目を反らす。
「……………」
そんなことはわかっている。
わかってはいるけれど、だけど……
「無言で出ていく…あの人がいけません…」
ゆっくりとアトリクスの手を離すと
「今日は自室に籠ります………」
「………………」

別に仕事が溜まっているわけでも、疲れているわけでもないがテンマは机に突っ伏していた。
「………………………」
なんとなくボーッと、ただボーッとしていた。
考えても見ればあの死神は凄いことをしたものだ…
あの牢獄にあるだけでも凄まじい数の書類だったというのに、テンマの分の書類まで全てこなしてしまった。
ヴァンデミアトリクスによると数日で…
死神になったとはいえ、彼はどうやら最高神なのだとか……
だからなのか、できないことはないしどの書類にも手を出すことができるのだ。
正直、あの性格で最高神ってどうなんだ、と疑問も浮かんでくるけど、本人は権力云々興味がないらしかった。
お陰で天界は常に最高神不在。
先ほど言われたとおり、今現在天界を回しているのはテンマスティくらいなのだと、思うには思う。
だけど、それでいいのだろうか…………

そんなことをぼんやり考えているときだった。
部屋に闇色の渦が突如現れた。
「…………………」
ゆっくり身を起こしてそれを見守る。
渦は徐々に人の形を成し、彼は現れた。
「………今回は早いお帰りですね、生命神様」
「やめい…その呼び方、性にあわねぇよ……」
苦笑しながら答えたのは死神・ヴォッドリース。
「最高神のことで話がある。テンマスティ、特に君には大切な話なんだ」
まっすぐ見つめてくる瞳。
どうやら冗談ではないようだ。
「わかりました……スケジュールは?」
スッと、スケジュールのかかれたノートを取り出す。
「今度の全巡だ。出来れば、世界主も呼びたい…頼めるか?」
「……了解しました。手配はしておきます。しかし、どういう風の吹き回しですか?」
スケジュールを書き込みヴォッドを見やる。
「俺が死神となったからな………」
その横顔はいままで見たことのないほど真剣な表情をしていた。

天界はあまりきっちりとした時間は決められていない。
また雲の上にある、というから陸なんてものもなく果てしなく「天界」なのだ。
そのため時間の規準は朝と夜の2つしかないのだ。
元々、長命な神々はあまり慌ただしく動くということを知らないのだ。
そのため上神殿が朝か夜、どちらにいまあるかで判断していた。
朝は半巡、夜を全巡と定めている。
人間界で言う7:00~19:00が半巡、19:00~7:00が全巡。
「最高神……それに、世界主………」
世界主……
それは三世界層(オウタニア界・バラレル界・ミステリア界)それぞれの7世界の主がここ、上神殿に集まると言うのだ。
この天界につれてこられて数百年…
年数も人間の感覚から言うなら物凄い年数になっていた。
それでもいまだ、こんな大人数を相手にすることはなかった。
「一体…どんな人達が、くるのでしょうか……?」

予定の時期はすぐに回ってきた。
どういうわけか、お知らせを回したら瞬間、お供も連れずにここ、上神殿にテレポートをしてやってくるほどだった。
「予想外……ですね………」
そんな上神殿の大広間をテンマはポカンと眺めていた。
そして大広間の中央付近で問題の死神と先ほどすぐさま駆けつけた二人と話し込んでいた。
一人は蒼い髪の青年。
見た目は20歳ぐらいか白い絹の服に身を包んでいる。
もう一人はクリーム色の髪に緑の瞳。
オリーブの冠にたくさんの草花が絡み付いた服と言えるかわからない格好だった。
二人はなんの躊躇もなく死神を生命神として認識し、真剣に話をしている。
「テンマちゃん、大丈夫…?」
そんなテンマの傍らにユピネルは座る。
ふかふかで高級なキルトを使った椅子は二人がけだ。
「…………驚きました…まさか、あんなに知人がいるなんて………」
「ふふ……確かに収集をかけるのをみるのは初めてよね?」
優しく微笑みながら、笑いかけてくるユピネル。
本当にユピネルがいてくれて良かったとテンマはつくづく思う。
「初めてです………まず、こんな会議が行われることがあるなんて……」
「………今回はかなり重大よ…………自覚のない最高神様はなにか新しい案があるみたいだから………」
そうして会話をしている間にも、大広間には次々とテレポートによって神々が集まってくる。
ほとんどが見たことない、そんな初対面ばかりだった………

===


「ふわぁーーーーー………さすがにきついです…………」
パタッと、部屋のベットに突っ伏すテンマ。
「すまないな、テンマ……」
そんなテンマを窓際から苦笑しながら見つめる死神。
「すまないと思うならなんで、あんな………うぅ…………」

それは先程の会議のことだった。
実を言うとその会議はテンマスティの紹介もかねていたらしく、そのことを聞いていなかったテンマスティは当然困惑と急に到来した緊張。
いくら能力補助を受けていてもスラスラでるような言葉など出てくるはずもない。
またその紹介の仕方が「天界準高位者」だ。
漢字連ねるともうよくわからないかもしれないが要するにこの天界の第二位の神、ということだ。
その言葉で皆ざわつくのは当たり前でテンマ本人も戸惑うのはまぁ、当然なのである。
そしてなによりも今回の会議の一番の目玉は
「それで…?あなたの連れてきたあの「天界最高位者」である統治神ってのはいったいどこのなにものなんですか…?」
呆れたように溜め息をつくと身を起こす。
そう、なんといっても、死神とはいっても現時点での最高神のこの死神が自ら「最高位」を譲る、という会議のなかで恐らくメインだったであろうこの議題にはたくさんの異論があった。
もちろん、それは紹介されたその「統治神」がどこのウマかも知れない謎の人物というのもあるかもしれないが、誰もが死神を「最高位」として認めてもいた、のだ。
なにせ、事情はどうであろうと少なくとも口調と容姿が魔界寄りになったくらいで、これといってほかに問題などなかったのだから…
しかし、死神は「けじめ」と一喝した。
そこで現れたのは真っ白い長髪に青い瞳の人物。
その容姿は最初、出会った当初のヴォッドを連想させた。
「統治神…ゼンギビジウス………はテンマスティ、君と類似の立場だよ………」
ふっと、急に口調を戻す死神。
そこで不意討ちを食らってまたベットに突っ伏す。
「…………つまりは、元は人間……人神なのだよ?」
そんな天魔の傍らに座り、優しく頭を撫でる。
「………………………」
「…わかってくれないかい?私がこのままで最高位に位置することはできないんだ…」
「………どうして……ですか…………」
「…君はもしも一般の庶民だったときに、敵対している存在が自分の世界を統治していたらどう思う…?」
「………………………嫌…です……」
言いたいことはわかっている。
ただ、納得できないだけ…
もしも、ここでの最高位を譲れば……もう譲ってしまったあとだけれども……
そうしたら、この死神の居場所は一体どこにあるのだろう?
「…………それが答えなのだよ…?」
儚く笑うその死神の笑顔を恐らくテンマは忘れることはないだろう……

「おはよう、情報神」
「………………………」
翌日、上神殿の玉座に平然と座していたゼンギビジウスこと統治神は爽やかな挨拶を寄越してきた。
正直まだよくわからない相手に心を開く気にはなれない。
ささっ、と仕事をしてしまおう……
テンマは挨拶を返すことはせず、書類を開く。
要点、現状、改善点、具体策をスラスラと述べた。
「以上です。それでは失礼いたします、統治神様」
「…………………」
深々と頭を下げ、踵を返すテンマスティ。
扉を抜ける時だった。
「…じ……情報神っ!!!」
「……?」
先程まで大人びたすましているようなそんな声に子供っぽさが混じる。
「えと……」
そして玉座に他の人物がいないのを確認すると…
「今度、お話させてほしくて……」
自信なさげに最後は声が小さくなる。
「……………統治神様、恐れながらあなたは最高位に相応しくないです」
そういうと玉座をあとにした。

「テンマちゃんって、厳しいわねぇ~」
お昼時、ユピネルはふわふわと笑いながらそう言ってきた。
「…どういうことですか…?」
「あら、ゼンちゃんに聞いたわよ~?相応しくないって言ったんでしょ?かなり凹んでいたわよ?」
「………」
まさか、ユピネルと統治神が繋がっているとは……
あまりの驚きについ箸をとめている。
ちなみに今日はとある世界の大和の国で夏に食べられているという「冷やし中華」を食べていた。
「まぁ、そこまで構えなくてもいいと思うわよ~?あの、ヴォッドちゃんが連れてきた子なのよ…?」
「……それはそうですけど…」
「…それにあの子の出身世界は私と同じ世界よ……」
「…………」
出身世界……
それはこの世に広がる幾重にも重なった多数の天界を指している。
この世界ではここが唯一の天界である。
しかし、他に幾多とある世界にはここ以外のたくさんの種類の天界がある。
それはとある世界で神話、と言われているそれも含まれている。
そう、ユピネルはここ出身の女神ではない。
強いていうならここに「女神」という地位はない。
それはテンマスティがすでにそれに該当してしまうからだ…
「彼は私の世界での「人神」になる者だったの、わたしの世界では殆どが九十九神で八百万の世界なのよ?」
「……………」
「先程の会議で青い髪の男の神様がいたでしょう?」
にこにこしながら語るユピネル。
「えぇ……少し長めの髪を束ねた…」
「あれがわたしの旦那・大神様なの♪」
「………………え…?」
「いまは離ればなれだけれど、しあわせよ?」
にこにこしながら微笑むユピネル。
だんだん、理解が追い付かなくなってきた。
それはつまりどういう意味なのだろう…?
「……わたしはヴォッドちゃんにお願いされたからここにいるの」
「…!」
「わたしの愛する大神様は会いにきてくれるし、なによりここは争いがないもの…」
そうして寂しそうに笑う。
「争い…ですか…?」
怪訝そうにユピネルを見る。
天界に争いなどあってはそれは魔界と同じになってしまう。
「わたしのいた世界は天界と魔界は併合していたの…」
「併合?」
「えぇ、そこは特異能力を持った”異人間”となにも力を持たない”人間”の世界なの」
そんなことははじめてきいた…
少なくともここではあり得ない…
まず種族ごとで固有の属界を持つのが当たり前でそのなかで喧嘩程度ならよく見る話である。
「もちろん天と悪も当然同じに空間にいて、みんなそれぞれにピリピリしていたわ……」
苦笑しながら話すユピネル。
「最近では普通の人間の智力が上がってきて、私たち”異人間”について研究をし始めたの…」
「能力の研究……」
「そのなかで統治神…ゼンちゃんは普通の人間からどうすれば”異人間”になることができるのか、という研究材料にされていたのよ…」
「!!!!?」
「あの世界で私たちは相当有能に見えていたのかもねぇ……ゼンちゃんは毎日のように解剖されて脳を弄られてそれは、苦痛ばかりの毎日だったみたいなの…」
「…………」
「そんなときふっと、現れたのがヴォッドちゃんなのよ」
そうして微笑むユピネル。
「相当お馬鹿だったみたいでヴォッドちゃんも研究材料にされちゃったみたいなんだけどね?あの左顔面もそのときにされたみたいよ…?」
「えっ…!?」
「ゼンちゃんの研究をやめさせるために、ね?」
「……その研究者にはそんなに死神が魅力的に見えたのですか?」
いくら研究させてもらえるとはいっても、いままでの研究材料を横取りされるのだ。
よほど魅力がなければそんなこと成り立たない。
「……テンマちゃんは、あんまりヴォッドちゃんのこと知らないのね?」
「…………」
否定は、できなかった。
なにより自分よりもはるかにユピネルのほうが死神との付き合いは長いのだ。
「まぁ、まずはゼンちゃんと和解してくれないと…ヴォッドちゃんも動けないでしょ?」
「そうですね……私、少し自惚れていました」
そういうとテンマは広間をあとにした。

「統治神様」
ユピネルの話を聞いたあと、テンマはすぐさま統治神の元へと向かった。
「あぁ、情報神…少し待っていて欲しい」
どうやら先客がいたようでいろいろと指示を出しているところだった。
テンマはそんな統治神を観察していた。
「それでは統治神様!ご指摘ありがとうございました!!!」
若い天使がいそいそと玉座を後に走り去る。
「………………………」
「………………………情報神…」
「場所を移しましょう……わたしの部屋に来なさい」
「……!」
そうしてテンマは玉座を去った。

「死神………」
「…テンマ………今からかい?」
「………あなたも一緒にどうですか?」
玉座から自室に戻る途中、細いいくつもの水晶の束でできた渡り廊下。
美しい背景の中、闇色の死神は優しく微笑んだ。
「私は君たちが和解した後に、ゆっくり話そう…なに…逃げたりはしないから……」
「本当ですね?」
「あぁ、さぁ…行っておいで?」
………本当は知っている。
これから彼はまた世界の環の旅にでる。
様々な世界で色々な人を助けて、そしてまた次の世界へ……
「わかりました……それでは…また今度……」
止めてもきかないのは知っている。
だから、いまはしなくちゃいけないことをしないと………

===


「情報神…………」
緊張の面持ちでテンマスティの部屋に統治神が訪れたのはそれから30分ほどあとのことだった。
最初のテンマの言葉が響いているのか、内心が乱れまくってるのをテンマは見逃さなかった。
「そこまで緊張しなくてもよいのでは?かりにも私より上の立場ではありませんか」
そんな統治神に紅茶を淹れながらグッサリ差し込むテンマ。
「そ、そんなこと……言われても……」
当然統治神はおどおど。
「はぁ………堂々としていなさい。いいですね?」
「……………」
ピシャリといわれ硬直する統治神。
「まずは、自己紹介していただきましょうか?」
紅茶の入ったカップを統治神の前にコトリっと置きながらそう問いかけるテンマ。
「わ…我は統治神……その格の通り、統治する力を持つものだ……」
我って、今時……
「……名は、ゼンギビジウス…ルア・シャセルニカ……だ…」
「……………シャセルニカ…?」
それは……
「……情報神、君とは姉弟ということになりそうだ…」
内心、頑張ったって……見え見えですけど、とは言えない……
どう返そうか考えたあげくでてくるのは厳しい言葉。
「私はまだ認めていません」
「………………………________」
自分って、本当に素直じゃないな……
かわいくない…………そんなことを思いながら言葉を続ける。
「ですが、これから私に認められるような働きをしてください」
そのためにも…
「堂々としていてだかなくては困ります」
「!!!」
スッと、真剣な眼差しでゼンをみる。
「任せるがいい、我は全力で情報神の為に働こうではないか!」
「…………いや、それは逆ですけど…」
そんな少しずれた発想に思わず突っ込んでしまうテンマ。
「……む、確かにそうかもしれんな……」
突っ込みを真面目に受けとめ悩み出す。
このゼンの脳内回路はどうやら身内に対しては発揮できない設計なのかもしれない……
まったく死神といい、この統治神といい……

「もう少し私に厳しくしてくださいよ………」

思わず笑いが起こってしまう。
「ん……?そういえば、生命神殿はまたどこかにいってしまったな……」
不思議そうにテンマをみて、窓の外をみやる統治神。
テンマもつられて外をみる。

そこにはいつものように、気紛れで自由な雲たちがふわふわと浮かんでいた……

引用元:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7173601

◇導きの交差点

2016年8月26日 著

入り乱れる情報…
光るディスプレイに写し出されるのは自分の脳内の情報…
入っては消えていく、あまりの情報に頭はガンガンと悲鳴をあげていた。
「………………_______________」
激痛に叫ぶこともできず、ただただそのディスプレイをぼんやり眺めることしかできなかった。

いや、もうこんな現実すらもどうでもよかった。

訳のわからないコード達を無造作にはずされ、また息の出来ない液体に閉じ込められる……
ボクは一体なんなのだろう…?
目を覚ませば、いつも液体に閉じ込められていて、そとでは白い服の人達がボクをみてはなにか話している。

そんな中であるとき黒い人が来た。
その人は悲しげにボクを見ていたんだ。
そのまま静かにこう言った……

「俺が助けてあげるから……………」

***

「はっ……………!…………ぁ……?」
周り白く統一された広い部屋……
金の金具が美しく白塗りのアンティーク家具たちはその魅力を存分に発揮していた。
そして、自分を暖かく包むのは白いふかふかのベット…
「大丈夫かい?ひどくうなされていたみたいだけど……」
「あ…………」
傍らには優しい笑顔を向けてくれる黒い死神。
いや、黒というより闇色というべきか…
深い深い暗闇で、無限の可能性を秘めた色…
だけれど、深すぎて不安も抱いてしまう、そんな色。
「いや……大丈夫…だが……………」
そもそもボクは言葉なんて、知らない……
知らないはずなのに、なんで話せるんだろう…?
「………まだここには慣れていないんだな…あそこよりはだいぶましだとおもったのだが……」
「あぁ……我はあそこには戻りたくない……」
それは本当。
なんで言葉を知ってて話せるのかわからないけど、戻りたくなんかない。
「…そうだな…今度は悪夢を見ないようにおまじないをかけてあげよう……さぁ、ゆっくりお眠り………」
「………………_____________」
そういう死神の言葉に誘われるようにボクの意識は眠りについていく…………

***
「いいだろう、その体……研究させて貰えるならあんな人形くれてあげようじゃないか」
「ほう、なら取引成立だな…?」
無機質な蛍光灯がその話の内容をさらに無機質なものにしていた。
「では、少し資料をまとめてこよう……ここで待っていてくれないかな?」
白い白衣を着た研究者は部屋を後にする。
その表情は歪み、常に不適な笑顔をたたえ、まるで……

「あれこそ、たちの悪い死神じゃねぇか………」

***
黒い人は、そのあと毎日毎日、ボクのところに訪れた。
その人が来るようになってから、ボクが痛いと思うものは少しずつなくなっていった。
この液体からは出られなかったけど……
そのかわり、黒い人には毎日毎日来るたびに、なんだか元気が減っているきがした。
そして、そのときは来たんだ……

白い人たちは真っ赤に染まり、光るディスプレイは光を無くし、よくわからないコードたちは引きちぎられ、ボクを閉じ込めていた液体はなくなった………_______

目の前には、ボロボロに泣き崩れた「死神」がいた…__________


「いつか巡る魂は、再び同じ過ちを繰り返すだろう………」
ぽそりっ……と呟くその表情は伺えない。
だけど、泣いているのはわかった。
「これで、俺は悪となる………」
鈍色に輝く鎌は寂しく、虚しく空を切り、天井は崩れ落ちる。
「なに、これで善なる魂が救えるのなら、本望だろうが……」
そとから歓喜の叫びが聞こえる。
ここには、ボク以外にもヒトがいたんだ……
ぼんやりとそんなことを考えた。
「さぁ、ゼン……やっと君と話ができる…………」
こちらを振り向くその左半分の顔は、赤黒く焼けただれ、無理矢理埋め込まれた機械のレンズが、火花を散らしていた。
「………ぁ……ぃ…………………________」
話といわれても、ボクにはそのすべを知らないし、言葉も理解はできない…
できないはずなのに、なんでいま考えることができるんだろう…?
「それは俺があげた力だ……」
力……………?
「………言葉がなければ気持ちが伝わらないだろう?」
…気持ち……確かにそれはそうかもしれない……
「だから君に言葉をあげたんだ…」
…………凄いんだね……
「……凄くはないさ……」

そういうとくるりと背後に向き直る。
キラリっと鎌についたエメラルドグリーンの宝石が光る。
「せめて、再び巡るときは純粋な魂でいておくれ……」
すっと、鎌を突き出すとくるりとまわし…

舞う…………_____________

まるで全ての悲しみを表現したかのように……

可憐でありながら儚く……

ふわり、またふわりっ…と、宙に浮き出す緑の淡い光は、死神を慰めるように鎌の軌道を追う…………

綺麗………
単純にその感想しか浮かばなかった。
「………そんなことはない……俺は汚れきっている……」
赤に染まった中で舞う死神は語る。
「君を救うのが、俺ですまない………」
どうして、謝るんだろう?
「………………完全な俺だったなら…」

*****
「また夢をみたのかい?」
「あぁ、我があそこから出た日の夢を………」
死神はそんなボクの言葉に不機嫌な顔をした。
「君は本当に………」

そういうと記憶は薄れた………

===

再び目を覚ますと、死神は傍らにはいなかった。
「……………」
ゆっくりと体を起こすと、なんだかぼんやりとしてなかなか動く気にはなれなかった。
しかし、そんな思考を遮るようにドタバタトと扉の外から慌ただしい足音が聞こえた。
それはランダムに忙しいとかではなく、一直線にまるでここを目指しているような、そんな足音。
もちろん上品に歩いてくる、なんてのが普通となっているこの上神殿ではかなり珍しい事例だと思われる。
「…………」
しかし、ここが目的地というのはわかる。
何故ならこの棟のこの階にはこの部屋しかない。
残念ながらほかには渡り廊下でつまりは自分に用があるのだろう。
だんだん近づいてくる足音に後押しされるようにベットから抜け出す。
あの死神から授かった魔法、というやつで普段着から正装へとかわる。
一応、地位的に普段着をみられるというのはあまり良いこと出はないからだ。
そうして扉は勢いよく開かれる。
「統治神さまぁぁぁっ!!!!!ケーキいただいてきたので一緒に食べまショー♪」
この距離をどうやってケーキを倒さずに走って来たのかわからない青のツインテール。
「星天使……もう少しおしとやかにできないのか?」
ため息をつきつつもテーブルに案内する。
なにせケーキはしっかり頂きたいからだ。
「あはは♪いいじゃないですか~」
にこにこしながらソファーに陣取る星天使・ヴァンデミアトリクスはテーブルにケーキとカップを並べる。
「まったく、女性なのだ。もっと気品がいるのではないか?」
「むー、まぁまぁ、同期なんだし多く見てよ~」
そう、彼女とゼンは同じ時期にこの上神殿に来た、いわば同期というやつだ。
残念ながら地位というものが違い過ぎるが…
「同期といってもだな……」
溜め息を着きながらカップに珈琲を注ぐ。
この珈琲は厳選ブレンドらしくとても香りのいいもので匂いだけでも美味しさが伝わってくる。
そんな珈琲とケーキをヴァンデミはキラキラとした瞳で楽しみにしていた。
「ね、もう食べてもいい?」
にこにこした笑顔で問うヴァンデミに敵わずついついゼンは頷いてしまう。
「いっただっきまーす!!」
ぱくっ///♪
「おっいしー☆」
ケーキをもふもふと頬張り喜んでるヴァンデミを見ながらゼンも腰を下ろす。
「………そういえば、星天使はここに来たときどんな感じだったのだ?」
先程見た夢を思い出す。
よく考えたら自分はあの死神につれてこられた。
つまり彼がいなければここに来て幸せな生活などできなかったわけだ。
そこで他の人はどういう経路でここにたどり着いたのか気になったのだ…
「そうですねぇ~…………」
そうしてヴァンデミの語りは始まった。

(いやぁ~~
まさか、こんなところに配属されるとは~……)
目の前に門を構えるのは天界の中央にそびえたつ大きな神殿…
青いツインテールを揺らし、見上げるそれは、あまりにも大きくて首がいたくなりそうだ。
黄色の翼をはためかせ、正面の扉に向かう。
一応階段というものがあるが、前記の通り、首が痛くなる、とだけ記しておこう。

「はぁ~……なんなのここ、飛んでも翼が折れるかと思ったわ……」
やっとこさ登りきり、肩を落とすとへたりこむ。
普通の天使では珍しく黄色い翼をもつ青のツインテールははぁ、とため息。
「………」
「……………………?」
そして、視線はあった。
「あらあら、もしかして新入りさんですか~?」
おっとりとした口調で近づいてきたのはピンクウェーブの女性。
そしてなかなかな悲しい事実を伝えてくれた。
「ここ、まだエントランスですよ…?」
ニコッ、と微笑むその顔を、一生忘れることはないだろう………

「それで?ユピネル…お前はわざわざ遠回りさせたあげくに道を間違えたのか…?」
「うぅぅぅぅ~~~~——……………」
横になったソファーからこんな異様な風景をあたしは目撃していた。
ここは天界・上神殿。
神聖であり、神と一部の天使だけが入ることを許された、そんな清らかな場所。
そのはずなのに…
「はぁ~………信じられん……第一俺がお前さん見つけなかったらどうする気だったのだ?本当いうと俺は見られちゃいけない存在なんだぞ?わかってるのか???」
床に丸くなっていじけてうじうじしているピンクウェーブを覗きこむようにしゃがみこむのは闇色の死神。
この神聖な場所で何故死神がいるのかは謎だが、とりあえずあたしを疲れさせたという名目で現在ピンクウェーブは説教を食らっていた。
「……まぁ、いいけどさ………………」
諦めたように立ち上がるとあたしをみる。
「すまないね、御客人……仮にもこの馬鹿が迷子にならなかっただけ、ましだと思ってほしいんだ……」
テーブルを挟んだ向かいの椅子に座ると、紅茶を入れてくれる。
「………………」
「別に、毒なんかは入れやしないよ……」
死神の入れた紅茶……という、不安をあっさりと感じ取ったらしい…
「俺はここにとどまるつもりもないし、害を加えるつもりもない。ただの、放浪者と思ってくれて構わん…あ、ミルクと砂糖は好きなだけ入れてくれ」
そうして、あたしの前にはちょうどいい具合の紅茶とミルクと砂糖が。
「いただきます……」
少し躊躇しながらも、喉に通す。
「…………///」
ほっとする味だった。
まるで先程の疲れが取れていくかのように……
と、いうのも、このピンクウェーブさんはかなりの方向音痴で道案内をしてくれたのだ。
だけどいくらたってもそこにはたどり着かず、なんとまったく知らない時空の天界に連れられていたのだ。
そんなとき、たまたまこの黒い死神を発見。
ピンクウェーブは嬉しそうに話してるなかで空手チョップをくらい、見事、目的の天界に連れてもらえたのだ。
「……詫びのつもりで、リラクゼーションのまじないをかけておいた………数分すれば体も疲れがとれるだろう……」
そういって爽やかに笑う死神。
なんだか、普通の死神と違う。
……と、
「失礼します、呼びましたか?死神…」
ふっと、時空が歪みエメラルドグリーンの美しい神様が表れた。
「っ……………………!!!!!!」
その魔力に思わず圧倒される。
これはかなり高位の神様っ!
「テンマ、いきなり呼びつけてすまないね」
「いえ、えぇと……その御客様を疲れさせたのがユピネル、ということは理解できました」
「うぅぅ~………」
「その解釈は大正解だな」
ここでこびを売っておこうかと思っていたけど、どうやらその必要性はないみたいだ。
「あの……」
とりあえず誰なのかしりたい…
「あぁ、自己紹介というものをしなくてはね」
そんなわたしの意思を汲み取ったように頷く死神。
「俺は、まぁ、ただの死神だと思っておいてくれ。そしてこっちのエメラルドグリーンが情報神・テンマスティだ。今日からお前さんがお世話する神様だよ」
「はじめまして、紹介いただいたテンマスティといいます。これからよろしくお願い致します♪」
にこっと、笑う笑顔に思わず惚れてしまうところだった。

「ていう、出会いなんですよねぇ~」
そんなことをいいながらケーキを頬張るヴァンデミアトリクス。
「ほぅ、そんな出会いだったとはな…?」
こくこく頷く統治神。
「女神はそんなことひとつも教えてはくれないからな…」
「そりゃそうですよ~、統治神様にそんな恥ずかしい話、自分からする人なんていませんって~」
ケラケラ笑いながらケーキを平らげたヴァンデミは立ち上がる。
「まぁ、同時期にここに来たゼンちゃんには親近感あるんだよね~……地位に雲泥の差があるけど…」
「いや、まさかっ……あぁ、でも……地位にはなんとも言えないが……」
そういって顔を曇らすゼンギビジウスの肩にヴァンデミアトリクスはぽんっと、手をおく。
「ま~ま~、そんなの気にしてちゃきりないですって~」
「……………!」
にこにこ笑うヴァンデミ。
ゼンはどう反応してよいのかわからず戸惑っていた。
「なにより、うちの”本当の最高神”は地位なんか気にしないからね♪」

ニコリッと笑うヴァンデミの笑顔のように空は透き通っていた。