黄金ノ国を護る式神の話

2024/10/22 著

彼等には使命を与えた。

人間を導くという使命を。

天に輝く星の用に、俺のような闇を恐れる人々の目印になるような明るい星になれるように。

北天。

北に光る北極星を司る式神。

寒く雪を纏うような白磁の肌は揺らめくオーロラをたぐり寄せ夜闇に光の波を浮かべる。

南天。
人々に南十字星とまとめられる星々を司る式神。
夏の夜、盆の少し不気味な時期に宴を開き祭り囃子を奏で墨色に沈む海に盛大な花火を打ち上げる。

東天。

漆黒の夜に日を引き連れ朝を司る式神。

音のない夜に虫たちに朝を知らせ、鳥たちに視界を与え人々を眠りから覚まし新たな一日を配り回る。

西天。

暮れゆく一日を見送り黄昏を司る式神。

一日の終わりを見届け新たな一日を迎えるその時まで星々に明かりを付けて回り闇色の夜でも見失わないよう目印を与えて回る。

それぞれが、それぞれの目的で人間の世界で暮らして幾数百年。

人々は電気を発明し今では明かりの灯らない夜など珍しくもなってしまった。

そんな中でも彼等はひっそりとその役目を果たすべく人混みの中を導く為に歩く。

もう主に会うことはないのだろうとどこか諦めを含んだ表情には寂しさを帯びながら…

そんな日々を過ごしてまた数百年。

人間の暮らしに馴染みきった東天はインターネットサーフィンでとある活動者に手を止める。

普通の人間では解らない、いや、人ならざる者でも見分けることはできないだろうその魂の色を「式神」である東天には捉える事ができた。

夜色の闇を謳いながら暗闇に怯える龍。

陽の許でしか穏やかに眠れないその姿を思い浮かべ腰を浮かせる。

「琥珀」

少しあいた窓からビュンッと突風が吹けば東天の腕には一匹の大きな鷹が指示を待つように見上げている。

「貴方も覚えているでしょう?夜を怖がる闇の主を。どうやらこの地にいるらしいの。探せるかしら?」

いつも飄々としてつかみ所のない東天だが今日はいやに真剣な眼差しを琥珀に向ける。

通常なにかと悪戯をされては鬱陶しく思っていた琥珀も今回は素直に頷き窓へと向かう。

『他の空の民に共有してもよろしいか?』

飛び立つ前にチラリとふりかえれば興奮しているのか揺れる瞳で頷く東天。

「お願い、私はもう待てないのだわ」

『承知』

あまりにも素直で真っ直ぐなその姿勢に少し笑みをこぼせば翼を大きく広げ風を呼び星の瞬く闇夜に踊り出す。

「…必ず見つけて欲しい、私は一人では寂しいのだから」

飛び立つ後ろ姿に願いを託し瞼を瞑る。

こうしてはいられない、他の式神にも連絡をしなければ。

あまり嬉しくない通知欄にしかめっ面で駅前のベンチにうなだれる南天。

ここは都心から少し離れた若者に人気の飲み屋が多く建ち並ぶホットスポット。

友人と待ち合わせをしていた南天は予定より早くついてベンチでくつろいでいた所だった。

そんな時に画面を彩るのは飄々とつかみ所のない東天のアイコン。

自分も人の事はいえないが東天はその何倍も先を読み何もかもを思惑通りに進めるのが得意な口上手なのである。

折角の遊びタイムをこんなやつの為に使いたくはない。

が、今回は異様にコールが多い。

どうやら大事な内容なのだろうが、できればやっぱり関わりたくはない。

「…」

鳴り止む気配のない10コール以上のその着信に観念しスマホを耳にかざす。

「なんだよ、今から俺はカラオケなんだ」

怒られる前にまずは今自分が忙しい事を伝える。

…が怒ってくる様子がない。

「…なんだ、黙って。らしくねぇな?なにかあったのか?」

「見つけたのよ、主を」

「!!!!!」

「でもインターネットでその魂の色を観測できただけ。今琥珀に手伝って貰っているのだけれど、南天、貴方にも頼めるかしら?」

驚きのあまり言葉が出てこない。

我が主は当然ながら式神では到底及ばない力を持っている。

それは姿を隠すことにも特化している。

どれほど頑張っても及ばなかった、見つけることができなかった主が。

見つかるかもしれないのだ。

「…解った、俺も柘榴に頼んでみようと思う。情報ありがとな」

「見つかったら教えてね」

「勿論」

「ありがとう、それじゃあ」

あまりにもあっさりと切れた通話を画面も見ずに閉じれば先ほどのベンチに腰掛け草むらの黒猫に目をむける。

「柘榴、今のを聞いたか?」

『聞いたわ、猫の聴覚を舐めないで頂戴』

「頼めるか?」

『お安いご用よ?なんなら式神のあんたなんかより先に見つけてやるんだから』

「んだと!?よし、負けてらんねぇな!今日のカラオケは断って俺もひとっ走りしてみるとするか」

『二足歩行が私に追いつけるかしらね?』

「今に見てろよ!!!!」

するりと雑踏に消えている柘榴の背に人差し指を向けながら、こうしてはいられないとスマホを取り出しタップしていく。

とりわけ懐いていた訳ではないが、式神というこの身では主に逆らう事ができない。

それならばこの何千何百と人々を導いてきたこの自分を、認めて欲しい。

会って、自慢したい。

その気持ちを抑えられず南天は駅の改札に向かっていった。

引用元:https://voddolesu.fanbox.cc/posts/8753263

2026/01/07 著

引用元:https://voddolesu.fanbox.cc/posts/11202741