2016年8月26日 著
ゴォォォォォ…
静まる深夜のビルの間。
ひしめき合うビルはそこに換気扇の音だけを響かせている。
コツ、コツ…
そんな中でひときわ高く響き渡るのはヒールの音。
「どこに隠れたって無駄なんだよ?異世界の旅人さん」
艶っぽい声音の女性はビルの間を歩いていく。
静かに、一歩一歩、しかしその顔には悔しくもなにかの欲望にあふれる笑顔でひきつっていた。
「早く私のものになりなさいよォ!!!!!」
パァァァァンッ!!
響き渡る発砲の音。
「誰がなるかよ、あんたに捕まったらどうなるか、なんて有名だからね…」
「ふふっ…人外ハンターをなめないでほしいわ」
「…自惚れ屋がっ」
吐き捨てるようにそういうと走り去る黒い影。
コートの裾は撃たれた跡と切り傷でぼろぼろになっている。
「いいわよぉ、この私のテリトリーで思う存分走りなさい」
クスクスと笑いながら不敵に笑む女性。
***
ここはメルン、人間が天使や悪魔を認知できる、そんな世界。
世界は人間界である地上、神々や天使の住む天界、悪魔や妖怪の住む魔界で構成されている。
お互い認知できるため和解し助け合うのかと思われた。
が、しかし…
人外を認知できる人間たちの中で、自分にない特徴を持つ天使や悪魔というものはとても魅力的に感じるのだろう。
この世界の中で人間たちは「人外ハンター」というものを生み出してしまった。
目的はとても簡単。
どういう原理で空を飛ぶことができるのか、なぜ魔法というものが人外には使用可能なのか
科学の進歩した人間たちにとって視認できる人外はよい研究材料となっていた。
通常、解き明かされることのない不可思議を探求するあまり人々は人外を捕獲するのが当たり前と化してしまっていたのだ。
そしてこのメルンで3柱ともいわれる人外ハンター。
彼らはより多くの天使や悪魔、そして神さえも捕獲したのだという。
目的は様々で3柱の一人、瓦木琢磨は企業に売りさばくため、二人目は従者として使わせる酒田敏明。
そして三人目はコレクションとして永遠に閉じ込める柳川恵子。
それぞれ資産家で莫大な費用をこの人外ハントに投じている。
それはニュース番組に取り上げられるほどに。
人外コレクターである柳川恵子は特集を組まれるほどだった。
捕らえるごとにトピックスを飾り、家のコレクションルームは随時開放、来客数もあまたに上るそうだ。
そんな彼女が目を付けたのは虹色の髪を持つ死神。
これはすでに全国に広まったニュースであり、見かけ次第、彼女に連絡を、なんていう協力要請まで出されているのだ。
「まったくもって信じられない…こんな世界があってたまるかよ…姿を消しても無意味な世界なんて…」
走った後の上がった息を殺しながらぼやく闇色。
光が当たらない場所では輝く虹色も闇色へと変化する。
こんな世界ではまともに光に浴びることもできない。
闇色の死神はただただため息を落とすしかなかった。
この世界にきて約数週間…
それは依頼にてこの世界に訪れた。
テンマスティの話によるとどこの出身かわからない天界属性の天使が上神殿に訪れたのだという。
情報の神であるテンマスティにさえどこの世界なのかわからなかったため闇色の死神はテレパシーにて御呼ばれした。
それはいとも簡単な内容であった。
「まさかこの世界の人間が天使の体内エネルギーのメカニズムを解明するまでに至っていたとはね…」
通常天使と人間はおおよそ変わることはないがそのうちに秘める体内エネルギーは各天界によってある程度区分化されている。
おそらくその天使は見事に人間に捕獲され体内エネルギーを解明、改良され研究のために野放しにされていたのだろう。
「問題なのはコレクションとされた主を助けてください…だからなぁ…」
困ったように頭を掻くとパチンッと指を鳴らす。
「しかしながら俺ちゃんが生み出した生命体になれないわけないんだな」
なんとはなしに普通の女の子に化けた闇色の死神は颯爽とその場を去っていった。
***
「どうして捕まらないのかしらっ!!!」
ダンッ、と悔しそうにテーブルを叩くと憎々しげに叫ぶ。
「どうやら、私たちの知らないメカニズムを持つ人外なんだわ…」
わななくも途端ににやりと唇をゆがませる柳川。
「いいわ、私のコレクションにそれくらいのものを手に入れないとね…ふふふ…」
「ここが…」
閑静な住宅街にネオンと発光ダイオードで飾られたその巨大なビルは、異様な空気を漂わせていた。
入り口にはたくさんの白衣の人間たちが列を作り開放されるのをいまかいまか、と待っていた。
「…(ここまで人間が関心をもつなんてよっぽどなのだろうか)」
時刻は午前11時。
扉は開け放たれ人々は建物に吸い込まれていく。
エントランスではたくさんの煌びやかな調度品が飾られ正面には…
「っ…____」
恐らくこの世界で生命を司る神なのだろう。
心臓の部分に鎖を通されいまだ溢れる鮮血と神を守ろうと必死に芽生える植物達。
しかし腰の部分でふさがれたアクリル板によって守ることさえできずにひしめき合っていた。
ガラスで囲われたその展示区はまるで噴水のような形状になっており360度から閲覧することが可能となっている。
噴水からは神の固まることのない鮮血が流れまるで神の聖水とでもいうように人々はその鮮血をくみ取っていく。
それは崇めるように平伏すようでいて、ただただ自分の欲望のために必死にもがく人間そのものの絵面のようにも思えた。
「…」
さながら闇色の死神は何とも言えぬ表情でその様子を見つめていた。
「貴方、虹色ね?」
「っ!」
「バレバレよ?ここに来るのは私利私欲のために私のコレクションを一端でも欲する者が訪れる場所。
貴方のような表情をする人間なんて来ないのよ」
「…なんてひどいことをするんだ…君は…」
「あら、そんなの関係ないわ。私たちには扱うことのできない不思議な力を潜在能力として持っている貴方たち人外。
それに憧れ魅了されわが物にしたいのは当然でしょう?」
「だからと言って…」
「いいわよ、貴方もすぐに私のコレクションにしてあげるわっ!!!!」
その声ともに大型の銃を向けて黒ずくめのタキシードが死神の周囲を取り囲む。
「魔法は効かないどころか動けないでしょう?」
クスクスと嬉しそうにわらう柳川。
確かにまったく動くことはできない。
「私がこうまでしてでも貴方を捕らえたくて仕方なかったのよ、なにせ…」
そういうとリモコンを黒いタキシードから受け取り死神に向ける。
そして…
「貴方の虹色は誰をも魅了するわ…」
人間に化けていた魔法をあっけなく溶かされ本来の姿を館内にさらけ出す。
しかし、何も抵抗することができない死神はただただ焦るしかなかった。
「あぁ、素敵だわ…」
艶めかしくもなにか狂気を感じる瞳で虹色の髪を手に取りうっとりとつぶやく。
「これで、私のもの…」
そういい鉄の檻を準備するときだった。
ガシャァァァァァァンッ!!!
「なにっ!?」
凄まじいガラスの割れる音とともに閃光が放たれた。
「なんなの!?今すぐこの空間を暗くしなさい!」
柳川の声とともに館内の電灯は消され外からの日差しが室内を薄気味悪く照らした。
そうして柳川の目が光に慣れたとき、そこに虹色はいなかった。
引用元:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7173740
きらきらと輝く虹色の髪。
それは天使の中でも絶世をほこるといえるだろう。
かくいう死神本人は何も手入れしていないため全く関心はないようだ。
「こちらです、どうぞ」
ここはメルンの天界、リスーン神殿。
あの閃光の中、死神はとある智天使に助けられたのだ。
天界の天使階級は全部で9つ。
第一の位階、上から順に第一階級熾天使(セラフィム)、第二階級智天使(ケルビム)、第三階級座天使(スローンズ)。
第二の位階、第四階級主天使(ドミニオンズ)、第五階級力天使(ヴァーチュズ)、第六階級能天使(パワーズ)。
第三の位階、第七階級権天使(プリンシパリティーズ)、第八階級大天使(アークエンジェルス)、第九階級天使(エンジェルス)
つまり彼は上から二番目の位の天使なのだ。
「ここは?」
通された部屋は蒼で統一された色彩に白の調度品ととてもクールな内装となっていた。
「ここは僕の部屋ですよ、まぁ、お疲れでしょうからお掛けになってください」
にこやかに笑いながら椅子を進めると向かいに腰掛けるのはセリカ・クロイツ。
しっかりとした体格ではあるがどこかほっそりとしなやかにも見える彼。
先ほど死神を救ったのはこの天使だったのだ。
いわれるがままに椅子に腰かける死神。
見かけによらずクッションがふわっとしており思わず顔がほころぶ。
「まずは先ほどは本当にご苦労様でした…この世界の人間が本当に迷惑をおかけして申し訳ない…」
そういい深々と頭を下げる。
「えっ、いやっ…それはいろいろな世界事情があるから仕方ない…そんなことより…」
あわあわと顔を上げるよう促す死神。
「どうして君たちは俺ちゃんが別の世界の者だとわかるのだ?あの人間もそうだったのだが…」
「それはここが愚人の世界だから、ですよ」
「愚人の?」
これはあまり良い響きでない言葉だ。
「ここメルンは生命循環の第2関門と言われている世界です」
「…なるほどな…」
生命循環、それはあらゆる魂が神になるための段取りとして通過する過程に通らなければならない関門のようなもの。
通常9つの世界を巡り、初めて神としての資格を与えられるのだという。
かくいう天使なるものは神の一歩手前となるが9階級をどう上がっていくのかはその魂次第なのだとか。
そして人間にもそれはあり、この世界では前世にて罪を犯したもの達の通り道の世界なのだという。
「そんな世界でも天使と悪魔は必要であり善と悪はわきまえなければいけない、と…?」
「そのためにこの世界の神は人に我々人外を目視できる力を与えたのだろうと思われます」
しゅん、と少し神の意志をすべては理解できないであろうセリカは語る。
「この世界ではやはり罪を一度は犯した魂が集まる場所…当然悪知恵も働くだろうし…」
「そして標的となってしまったのはかくいう人外である君たち天使や悪魔、か…」
「えぇ、この現状を神も知ってはいるのでしょうが…」
なぜか動かない神、そして彼は続けた。
「何よりも属性を司る神々が次々と捕まえられるこの中で仕える主である神を失う天使たちのことを本当に考えてくださっているのか…」
「…君の主は?」
「……ご覧になったあの生命の神です。僕はずっと主を見守るのが仕事となっています…」
「…」
あの鮮血を流し続ける生命の神。
生命を司る神の寿命は短くても5000年。
その間、意図せずとも肉体が老いることはなくひたすら生産を繰り返す逸材。
しかし、それは逆にどんな過酷な環境下でも死することを許されない体である。
「…どうか主様を助けてほしいのです」
「それは…まず、なぜ俺ちゃんに?」
そもそもこんなぼろぼろな死神もどきを天界の自分の部屋に招き入れるわけがない。
「あなたは有名ですよ?虹色の髪をもつ生命神ヴォッドリース」
静かな時が流れた。
「…虹色、か…俺ちゃんはもともと闇色なのだが自然たちは光が当たると輝くエフェクトを最近いたずらにつけるようになったからな…」
「この世界の人間事情は詳しいけれど僕自身は光をつかさどっているからね。光の精霊は貴方を歓迎している」
「光の加護は本来闇の俺ちゃんが受けていいものではないと思うのだけれどな」
そういって苦笑すると
「つまり君は精霊の言伝で俺ちゃんの情報を探っていたのだね?智天使:セリカ・クロイツ」
「…そちらも僕のことは筒抜け、ですか」
「生命の根源は俺ちゃんだからね…」
何ともなさそうに死神はそう言い立ち上がると
「いいよ、もともとここの天使に頼まれてこの世界に来たんだ。
好きなだけいろいろなことをさせてもらうよ、だけどその前に…」
***
人間世界では柳川が捕らえ損ねた虹色というニュースが大きく取り上げられていた。
なにせ柳川のフィールドである自分の館で、なによりギャラリーが多く訪れていたのだ。
広まらないほうがおかしい、というものであの場にいたいろいろな研究者たちが皆いろいろな番組に引っ張りだことなっていたのだ。
「なんなのかしらっ!!許せない…」
そんなテレビの電源をブツリッと切るとイラつきながらリモコンを投げつける。
「いいわ、必ず私のものにしてやるんだから…」
***
「君のことを少し知りたくてね?」
くるりっと回りながら天界の庭園を楽しむ死神。
本来こんなところに似つかわしくない存在なのだがなぜかとても絵になっている。
「僕のこと、ですか?」
きょとんとしながら首をかしげるセリカ。
「そうそう、例えばその右顔面の傷…」
智天使:セリカ・クロイツは白銀のセミロングに紫の瞳、大きな純白の天使の翼をもっている。
そして何よりもの特徴は右顔面の傷だった。
「あぁ、これは過去に悪魔との闘いで友人を守る際に受けた傷だよ」
現時点では悪魔とは休戦、どころかお互いの生命危機のため戦っている余裕などはこれっぽっちもないらしい。
何よりもまさか不思議な力を使えない人間がここまで脅威になるとはお互い思っていなかったのだとか…
人間に何かしらの恩恵を与えなければいけない天使たちは仕方なくとも人間に近づかなければならない。
それは悪の側である悪魔も同じで数あるハンターで悪魔ハンターも数多にいるのだそうだ。
よもや天と悪が戦っている場合ではないのだとか。
「ふむ、ということは悪魔のほうもやっぱり犠牲が出ているのだな?」
「えぇ、情報交換とはいきませんが人間界に下りれば必ずと言っていいほどどちらも捕らえられています」
「…ふぅむ…これは…」
「どうかしましたか?」
少し顔を曇らす死神にセリカは顔を覗かせる。
「…そういえば敬語じゃなくてもいいぞ?」
それとは対照的にぽやんとした様子で答える死神もなかなかなのではないかと内心思ったセリカである。
「よし、一度これは魔界側にも情報を提供してもらおうかな」
「えっ…!?」
ここは天界、死神のくる場所ではもともとない。
「ひ、一人で行かれるのですか?」
「だから、敬語じゃなくてもいいってば…」
むすっと答えるのが求める返答ではないのがとてもわずらわしいが。
「もともと俺ちゃんは死神だよ?”こちら側”ではなく”あちら側”の存在だ。何も不思議なことはないと思うのだけど」
「それにしたってあなたは大切な生命神ではありませんが。ましては他の世界の…」
「じゃあどうするのだ?セリカ、君もついてくるのかい?」
その言葉にぐっ、と押されつつも
「…えぇ、ついていきます。僕の主を救っていただくのですから当然です。」
少し緊張気味に、それでいてはっきりと、セリカはそう言葉にした。
「…堅物だな…どうなったって知らないからな?」
フッ、と手を振ればそこにはいつの間にか鈍色の鎌が顕現される。
エメラルドの宝石の埋め込まれた白銀の鎌。
死神とは到底思えない見た目である。
「さぁ、早速魔界にいこうか?」
ヴゥン、とうなる魔法陣は次第に闇に包まれ、二人を魔界へと送りこんだ。