たぶん最初に書いた物語。
(文字化けしてるエスペラント語がありますが雰囲気だけ感じてください)
2016年8月26日 著
エステニア…
そこはかとなく美しい緑に囲まれた楽園…
古の時より妖精、天使、神を信じ魔法を信じる夢幻世界。
他の世界では科学技術が発展し、夢幻を政府は信じることをやめ、今では宗教までも政府の邪魔だとなくなりつつあった。
平和主義、万人平等という謳い文句も今では耳にすることもなくなり、科学が全て、元素こそ世の理となっていた。
世界で唯一、自然と共存し、科学に偏らず平穏な国、エステニア。
そんな「異端」は当然、他国に認められるはずなど、あるはずもなかった。
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『次は終点、「雨谷」終点、「雨谷」です』
電子音声の御姉さんが終点を知らせる音声を聞き、僕は目を覚ました。
どうやら本を読んでいるうちに眠ってしまったらしい。
手にしているのは「夢幻世界エステニア」なんてファンタジーな本。
どうやらこの世界のどこかに存在している国らしい。
僕の住むここ「科学発展予定国・イジスチール」では心底あり得ないものばかりがこの本には綴られていた。
まず緑に囲まれた楽園。
そんなもの映像とか絵とかCG…
そんなものでしか拝んだことがない。
一番身近であるとするならそれこそゲームの中くらいだろう。
イジスチールにも一応、まだ緑というものもあるが、公園かガーデニングくらいだろう。
いまではアスファルトにコンクリートに鉄筋、強化ガラスにファイバーグラス…
人工的で科学技術をフル活用、そんなことを目標に掲げるイジスチールだ。
緑と土、そんなもの残すわけもないのだ。
この国は強度の非常に高いガラスのドームに覆われ、常に適温、快適空間となっている。
天気はもちろん暑くも寒くもない晴れ。
僕には雨や曇りを理解できない。
もちろんそれはイジスチールがこうなる後に生まれたほとんどの国民は理解出来ないだろう。
他の国では更に発展し科学技術の塊と言われる国もあるらしい。
ここイジスチールはまだまだ発展予定でしかないため知る権利が国民にはないのだという。
そのため僕達はどういう場所に住んでいるかすら知らされてはいない。 らしいというのは
ただ、快適な場所、という認識しかないのだ。
「ただいま…」
返事を待たずに鍵を閉め二階へと上がる。
丸い螺旋階段。
自室につくとパソコンをつける。
画面にはすぐに母の顔が映った。
と、
『ちょっと、またあんな奴の本読んでるの?いい加減やめなさいっていってるでしょ…』
しまった…
そう思いながらもエステニアについて記された本を隠す気はない。
どうせいつものことだから。
父は大学の研究員でエステニアについていまも調査のため旅に出ている。
そんな非科学的要素を嫌う母は離婚。
父は大いに悲しんでいたけど、仕事が忙しくそれどころではなかったらしい。
かくいう僕はといえば、まず今が当たり前であり非日常を夢見るお年頃だ。
興味ないわけないじゃないか。
なによりそこはほぼゲームの中のような世界。
いってみたいに決まっている。
「ごめん母さん、いま読む本がなくてね」
それが本当。
父はそれほど稼いではこないからだ。
『まったく…だからってそんなもの読むもんじゃないわ』
そう言い残すとプツリと接続が切れた。
まったく自由な人だ 。
そんなことを考えていると携帯がなる。
開いて見るとそれは大学からのメール。
珍しい。
ただでさえ僕の携帯はなることを知らない。
なんのためにもっているのかすらわからないというのに。
メールにはこう書かれていた。
– Sinjoroj universitato
(大学生諸君)
Kiel vi fartas, sinjoroj studentoj
(はじめまして、大学生諸君)
?u tio forte labori ?iutage, por studi
(日々、勉学に励んでいるだろう)
?i estas nova?o al vi infanoj
(そんな君たちにニュースだ)
?i tiu fojo, la unua ?talo Idi
(今回、イジスチール初の)
Por okazigi instruado de geografio
(地理の授業を開催する)
Atendante 30 tagoj venontaj
(来る30日を待っている)
Profesoro Vuoddorisu-
(ヴォッドリース教授)
ふむ…
かなり不審なメールであることは理解した。
まず記載言語からおかしい。
どうしてこんなひねくれたことをしたんだろうか?
ん…?
何故自分はこの文を普通に読んでいるんだろう?
確かにアルファベットであるから英語だろうかと一瞬思ってしまう。
ここイジスチールへ基本的に遠いどこかにあると言われる「ニホン語」を使用している。
なんでも機械の名前などをカタカナ表記にすることで文を理解しやすいとか…
そんなことはさておき、何語だろうか?
僕は机にエステニアの本を置き椅子に座る。
…エステニア。
そうか、思い出した。
エステニアの言葉だ。
昔の僕は勉強勉強と小さい頃から言われてきて、それに嫌気がさしたとき、父のエステニアの研究資料を漁っていたのだ。
子供ながらになかなか興味深いものばかりで当時はかなり熱中していた気がする。
そのなかにこの言葉があった気がする。
何故文法まで覚えていたのかは謎だが…
僕は興味本意でこの授業を受けてみることにした。
どうやら任意授業なので僕は人数が少ないことを祈りながら眠りについた。
銀の風を思わせる凍える風…
辺りを見回せばそこは銀世界。
ここはエステニア中央部・カシアブルナ。
地は氷り、川は止まり、ただ風だけが吹き回っていた。
「冰…寒いよ…もう少し暖かく吹けないのかい?」
そんな銀世界の中、彼は立っていた。
銀世界の中に混ざりあうように真っ白な長い髪、アメジストのように煌めく右目と左目は長い前髪で隠れ、暖かそうとはとても言えないビジネスコートにスーツ。
ファンタジーで夢物語風な エステニアには到底似つかわしくない服装だった。
『五月蝿い…下の町に水を届けるためには妾、雪精霊・冰様が雪雲をつくり春霞のミリアに雪解けしてもらわねばならん…』
そんなことをブツブツ言いながら現れたのは、氷山の一角をそのまま削りだし、繋ぎ会わせたような服(?)を纏い、淡い水色のストレートの髪をした蒼瞳の少女だった。
「それは知っているけど…ねぇ、冰がいるってことはここは「エステニア」かい?」
彼は冰を見ずに問う。
『フンっ…皮肉なことを…妾がおれるのはここ…エステニアだけだ』
そのまま冰は再び姿を消した。
「……………こんなに詰め込まれていたら…いつか滅んでしまうものもでてくる…か…」
そしてまた彼も姿を消すのだった。
=====
目覚めると7:00。
これは何となくヤバイ。
僕の家は学校から一番離れていると言われる「雨谷地区」。
名前の由来なんか知らないけどイジスチール中央区神楽殿地には電車で二時間ほど。
僕の通う川天学園は10:00から授業開始と定めている。
近くに住む生徒なら相当朝寝をすることも可能かもしれないが、かくいう僕には不可能な話だった。
急いでベッドから身を起こし、身支度を整える。
今日は意地でも10:00には間に合わなければならない。
例のメールの授業は今日なのだから。
実を言うと送り主のヴォッドリース教授を僕は拝んだことがない。
どうやらあれは学校側が自動送信したものらしく、生徒の間でもかなり話題。
その内容というのが、そう。
記載言語だ。
何語なの になっているようだ かわからない、送信目的もわからない、暗号にしか見えないその文章は迷惑メールとも噂された。
では何故それを学校側が送信したのか。
いまでは職員室の電話は鳴りっぱなしだとか…
「確かに読めない人から見れば紛れもない暗号だよね」
ポツリと呟きながら電車の窓の外を見る。
まだ朝方の柔らかい日差しが降り注いでいた。
「……………雨って、どんなものなんだろうか…?」
『次は「神楽殿地」、次は「神楽殿地」です』
鞄を手に取り、席を立つ。そそくさと扉に向かい時計をみやる。
現在9:27。
どうだろうか、ギリギリ間に合うかというところ。
僕は走って大学に向かった。
大学は地下5階、地上37階と縦式構造で各階4部屋の教室が設けられている。
そのため自然とエレベーターフル活用。
急いでいる時こそエレベーターは待ってはいない。
「はぁ…はぁ………予想は…してたけど…………」
運悪くエレベーターは地上24階。
階段で上がるわけにもいかず仕方なくエレベーターを待つ。
ヴォッドリース教授の部屋は34階…
「なんでまたそんな時間かかるところに…」
ようやく来たエレベーターに乗り込む。
と、背後から叫び声。
「待てっ!俺にもそのエレベーター乗せてくれ!」
バタバタと慌ただしく乗り込んできたその人物はあからさまに怪しい人物だった。
白い床に付きそうなくらい長い髪に白いスーツ…
「ありがとう、すまないね…」
そう言いながら見つめてくるのはアメジストに輝く右目…
左顔面は長い前髪で隠れている。
ちなみに白い手袋に白い革靴。
露出しているのは首と右顔面だけ。
しかも真っ白。
これで不審じゃないなど抜かすならかなりの鉄筋精神だろう。
「いえ…何階ですか?」
僕はとりあえず息を整え続ける白い人に問う。
「…34階……お願い…」
ふぅっ…と壁にもたれながら言う白い人。
そうかぁ…
この人も34階かぁ…
…
えぇ……!?
僕は正直緊張していた。
何故か?
それは何をどう考えても背後で息を整え終えられず死にそうにしている白い人がいるからだ。
僕は恐る恐る振り替える。
…座り込んでいた。
「え…と………」
「大丈夫だ…気にしないでこれ…」
「………」
「…この重力感が無理なんだ」
「………」
えーと、つまりこの白い人はエレベーターに酔っている、とそう認識してもいいのだろうか?
……ありえない…
この科学技術発展しまくる世の中でエレベーターで酔えるなんて、よもや天然記念物。
一体、どこの人間なんだろうか…
不審に思いながらも扉に向き直る。
背後で吐かないように必死に堪える声が聞こえてくる。
……………………………
気まずい。
そしてようやく34階にたどりついた。
僕は振り替える。
「お先に………どう………ぞ…」
見たことを後悔しながらさっとボタンに向き直り「開」を押し続ける。
「……………………………」
無言でのそのそ歩いていく白い人。
あれは人間じゃないのかもしれない…
そんなことを思いながらエレベーターから降りる。
僕は気を取り直し、ヴォッドリース教授の教室に向かう。
一体、どんな人々が集まっているんだろう?
何となくだが、先程の白い人も関係者な気がする。
なんだか気を重くしながら、扉に手をかける。
ガラガラっ……………
そこには 誰もいなかった。
そんなことより一番気になるのは、部屋すべてが白で統一されていること。
何故だかわからないがそれはまるで病室を思わせた。
と…………
「あれ、さっきの………」
そこにはさっきの白い人。
吐きそうでとても顔色の悪かった彼が普通に戻っていた。
ふむふむ、凄い回復力だ。
「あ、あなたもこの講座受けにきたんですね」
僕は最初からそんな気はしていたけど、これは礼儀、または初対面の人間に対しては社交辞令のようなものだろう、と、そう思っている。
「……君は一体、何をいってるんだい?…」
白い人は不思議そうに聞いてきた。
「いいかい?たぶん今回が最初で最後の授業ではあるけど、俺がヴォッドリースだぞ?」
当然と言うように教師の椅子に座り腕を組む。
「…………………」
僕は唖然とするしかなかった。
ここ川天学園は他の大学よりだいぶ個性的な先生が多いと言われている。
しかし、残念ながらここまで斬新な先生もほかには類をみないだろう。
なにより、その顔立ちは年齢不明性別不明。
まったく判定が難しいのだ。
「そんなに驚かなくても、君もたいして変わらないだろうに…」
はぁ、とため息をつきながら天井を仰ぐヴォッドリース教授。
僕は自分の姿を見下ろす。
そこまで斬新なつもりはない。
第一制服だから。
僕はその言葉が意味不明なためスルーし近くの椅子に座る。
それから10:00にド派手は演出は始まった。
クラッカー…
それが始まりの合図だった。
パパンッ!!!!
「「!?」」
それまで何かと探りあい疑い、お互いがお互いに探りを入れていた僕と教授は揃って飛び上がった。
そして音の出所、入口に目を向ける。
「はーろろんっ!でございますわっ♪」
そこにはいやに金の光が目立つ金髪碧眼の少女が派手に入ってきた。
「ん?あら、嫌ですわっ…こんなになんにもない味気もない変鉄もない部屋、ワタクシには似合わなすぎますわっ!」
入ってくるなり真っ白な部屋を見ると騒ぎ立てる。
「……………」
このいきなりの襲来(?)に僕は唖然とするしかなかった。
教授はといえばなんだか面白そうにこちらを見ている。
この襲来を予想していたのだろうか?
そんなことを考えていると…
「バックミュージック!ワタクシに相応しい高貴な曲を演奏しなさい」
手を高らかにあげ命令する少女。
するとすかさず背後からシンセストリングスが次々と現れ、クラシックのワルツの演奏を始める。
「そうでございますわっ!この質素な教室をきらびやかにいたしましょう」
またまた背後からたくさんの機材を持ったタキシードの人たちがでてきた。
そしてこの白い教室をスクリーンとして絢爛豪華な映像が写し出された。
「どうでございます?見た目だけとはいえ、これくらい豪華でなくてはワタクシが目立ってしまうでしょう?」
キラキラとアクセサリーの金を煌めかせながらこちらを見てくる少女。
「李生(イオ)・サヤマ・アキラクス。アナタのような凡人には勿体ないかしら?」
僕を見ながらクスリと笑う少女。
……凡人で悪かったね…
何故僕のことを知っているんだ。
僕はフイッとそっぽをむいた。
しかし少女はそんなことは気にせずに教授に向き直る。
「はじめまして、ヴォッドリース・ルア・シャセルニカ教授。ワタクシはライア・翠之宮(みどりのみや)・カオグラフでございますわ」
恭しくお辞儀をする少女、ライア。
「はじめまして、翠之宮の姫君。」
言って軽く会釈する教授。
「まさか君のような二等級家の方が来てくれるとは、ありがたいね」
ふふっと、笑みを浮かべる教授。
二等級家とはここイジスチールを治める「純白の帝」に仕える六家のこと。
それぞれ貿易の蒼之宮、政治の紅之宮、金融の翠之宮、商業の黄之宮、工業の紫之宮、そして裏の黒之宮だ。
各二等級家はそれぞれの持ち前の役割を持ち第一等級家「統治の白之宮」を支えている。
勿論かなりの実力派ばかりでいまでもそのシステムは立派に回っている。
なにはともあれあれはつまり成金はまさに翠之宮特有の空気なわけか。
僕はなんとなく納得してしまった。
なにはともあれ自己紹介も終わり(僕は凡人と紹介されただけ)授業は始まった。
「では、授業を始めよう」
教授は僕とライアと目を合わす。
「さて、今回イジスチールでははじめての地理の授業だ。まぁ、つまりは君達の頭では白紙の地図だと、そう認識して構わないかな?」
「良くありませんくてよ、教授。ワタクシにはある程度の知識はありましてよ」
すかさず突っ込むライア。
「翠之宮の姫君、君はどの程度理解しているのかい?」
「ワタクシ、金融の翠之宮を馬鹿にしてまして?各国とお金の貸し借りをしているのですわよ?まぁ、一国を除いて、ですわ」
「そうなのか…それは失礼…で、一体何を学びに?」
困ったように問う教授。
ライアは答えず教授に歩み寄る。
「冗談はいけませんわ、教授。ワタクシべつに授業を受けに来たのではなくってよ?」
ニヤリと笑い勝ち誇ったように腕を組む。
「ワタクシがなぜここに来たのか…教授、貴方が一番わかっているのではなくって?」
僕は傍観でしかなかったけれど、確実にいま、授業とは全く関係ない方へと進んでいることだけはわかった。
「…なんのことかな」
教授はわざとらしくわからないという素振り。
これはほんとに何かあるかもしれない。
とりあえず僕は傍観を決める。
「…あら、あくまで知らないと通すおつもりで?」
今までニヤリと嫌な笑顔を浮かべていたライアが急に真剣で冷たいもへと変わった。
「仕方ありませんわね…ワタクシ達、貴方を捕まえるように言われたんですもの…暴力はワタクシの性分ではありませんわ」
そう言いながら頬に手を当てる。
それが合図だったのかスクリーンで部屋を豪華な映像を映していたタキシードが一気に襲いかかる。
「翠之宮家はそんな暴力を使うような人ではないと思っていたんだがね…」
タキシード達の蹴りや拳を難なく避けながらぼやく教授。
そんな教授に攻撃が当たらないと気付いたのか今度はなにやら物騒なものを取り出した。
キラリと光る黒いボディ…
拳銃だった。
「おほほほっ!さすがの貴方でも拳銃の弾をよけるなんて芸当出来ませんわ!」
高らかに笑い言い放つ。
「その男を捕まえなさい!!」
その瞬間、銃声は鳴り響いた。
=====
目を覚ました時には、救護所にいた。
「…………………?」
ぼんやりした頭を無理やりあげる。
どうやらあの銃声の音で気を失ってしまったようだ。
我ながら恥ずかしい限りだ。
「お気づきになりまして?」
そんなぼんやりしたままの僕にかかった声は…
カーテンの向こう側にライアがいるようだった。
「まったく…貴方のような盆凡人がどうしてあの教室にいたのかまったくもってわかりませんわ」
カーテン越しながら嫌味なこといってくる娘だ。
僕はベットから降り勢いよくカーテンをあけた。
「ふざけないでください。僕はただ授業を受けにいった、ただそれだけですよ?」
僕はただ平然といってのけた。
「はぁ!?貴方は馬鹿ですのっ!?まさかあんなあからまさに罠のようなメールを信じてあんなところに、しかものこのこと行ったというんですの!?イカれてますわ!!」
本当に驚いたというようにこちらをみるみる。
「しかも、相手は不法入国者でしかもなんなのかもわからないエスペラント語を話すというエステニア人ですのよ!?そう、ワタクシ達でさえまだ誰も取引も連絡もしたことのない、エステニアのね…」
そんな言葉に僕は耳を傾けることはなかった。
何故ならそれは僕の父への侮辱とかわりないのだから。
「いくら不法入国をしていてもわからないことを恐れているようにしか思えませんね。ましてや貴方のような位の高い血族だからこそいままでにないことを受け入れられないだけなのではないんですか?」
僕はそう吐き捨てると扉に向かう。
「おまちなさいっ!ワタクシはまだ話が終わっていませんわ!」
いきなり腕を捕まれ僕は立ち止まるしかなかった。
「なんですか?僕は貴方の言うようにただの盆凡人でしかありませんよ。僕はただ興味があったからあの授業に行っただけ。ただそれだけのことです」
ライアの手を払いのけ僕はドアに手をかけた。
「…そんなご用件ではなくってよ。貴方のお母様がどうなっても構わない、と言うのなら別にそのまま帰っていただいて構いませんわ。」
冷たく、冷徹でなんの暖かみもない、そんな抑揚のない声で静かにいう。
「………お金持ちのわりに卑怯なんですね」
僕は振り向かず言い放つ。
「別に構いませんよ。所詮、血の繋がっていない母親です。煮るなり焼くなりすればいい」
そして、僕は教室を出た。
母は元々、とてもエステニアのついて興味を示してくれていたのだという。
父はそんな唯一の心の拠り所である母をえらんだ。
しかし、エステニアを嫌うイジスチールの住民はそんな父と母を蔑んでいた。
そんな待遇のなか受けた政府の裏方針。
「愛国心のないものは地下へ落とせ」
そんな人間味のない冷たい方針のもと母は地下へと落とされた。
地上に住むものたちはそこに行くことは許されずその時から母を間近で感じることはなかった。
その頃父はエステニアへと研究に没頭し、母が地下に落とされた3週間後に家へと帰ってきた。
なにも知らず、知っても軽く受け流す父を当時は嫌っていた。
そんななか父は再び研究のためエステニアへ…
まだ幼い僕をおいて…
僕はただ一人、父の研究資料を見つめる日々が続いた。
地下に落とされた母はパソコンで語り合うこともあるが、いつも父の悪口。
幼い時に父としか会話することのなかった僕は喋り方がそっくりらしくよくやめろと言われた。
正直、そんな境遇のせいで家族愛なんてあるはずもなかった。
何より僕は拾い子。
どこからきたのか、いつうまれたのか…
正直年齢さえ怪しい。
そんな僕にはコミュニケーション能力などあるはずもない。
もちろん喋ることもあるし、メールすることもある。
それでも、僕には友達と呼べる友達などいなかった。
だから、さっきのライアにもどう受け答えすればいいのか難儀したのだ。
若干、気になる話ではあるが、悪口ばかりの母とこれ以上会話しなくていいなら僕は割とどうでもよかった。
もう気を使う必要もない。
何よりいまさらはい、従います。と言ったところで地下はいわゆる牢獄。
もう、牢獄にいるひとに目をかけても意味もないと僕は思っていた。
事実、何を頼んだところで地下から出た人は一人としていないのだ。
どうせどうにもならないならかんがえないほうがいい。
イジスチールはそんな町であり人情のかける冷たい町。
そういわれても、ものごごろ着いたときからここに住む僕にとってはどうでもいいこと。
他の国になんといわれてもなんにも思わない、そういう町なのだ。
そう、「スチール」のように色もなく冷たい…
僕はこんな国が嫌いだけれどここで生きてきた。
どうがんばってもここの思考回路になってしまう。
いくら嫌いでも、妬んでいても、出ていきたくても…
僕はあの騒動のあとすぐ帰路についた。
とは言っても、いまこの現状を僕は予想していないわけではなかった。
なんせ相手は二等級家の翠之宮の長女。
きっと任務を遂行することは確かだった。
彼女はどこを走り回って僕の前にたつのかはぁはぁと荒い息をはいていた。
「お待ちになってくださいと、そういっているじゃありませんこと?」
二等級家じゃまず汗など流すことはないだろう彼女の額にはたくさんの汗の粒が浮かんでいた。
「なんなんですか、一体。僕のような盆凡人にはあなた方のような人達になんら役にはたたないでしょう」
僕はそそくさと通りすぎようとした。
しかし、それは黒いタキシードの人達に遮られる。
「……………しつこいですね…いいですよ、要件を言ってください」
「………………………はぁ、はぁ、…やっと人の話を聞くきになりましたのね…」
「…鬱陶しいですからね」
「…………単刀直入に言わせていただきますわ。貴方の父上の資料、ワタクシに差し出しなさい」
息を整えてライアはいった。
「…言い方がダメです」
なんなのだろうか?
これが人に物を頼む態度なのか?
僕は平然としているライアを睨む。
「あら…ワタクシに間違いはありませんわ。なんせイジスチール政府のご命令ですのよ?命令形になるのは当然なのですわ」
まったく先程からムカつく女だ。
「…勝手にしてください」
僕はそう言いと無造作に家の鍵を投げた。
「!!?」
「どうせ拒否したところで僕には権利はないと言うのでしょう?どうぞ、好きなだけ人権侵害してください。それでは」
僕はそのまま踵を返しその場から立ち去った。
そのまま僕はただいく宛もなくさまよった。
イジスチールには一人一人を町にある防犯兼監視カメラで見られている。
当然ぼくだって見られているだろう。
適当に公園のベンチに腰を落とすとため息をついた。
まったくもって勝手な世の中だ。
どこかの国では一番に人権とプライバシーを尊重する国があると聞いたことがある。
そんな国民に何一つ不自由ない国にいってみたいものだ。
ここイジスチールはまさに真逆と言って過言ではないだろう。
現に僕は家を政府に追い出されたのだから…
特に変わる様子もない晴れやかな天気を僕は初めて嫌だなと思った。
そのまま考えに浸る。
まず、僕が一番最初に頭に浮かんだのは教授だった。
あのライアの話によれば彼はどうやら不法入国者。
そんな彼が何故学校のメールを使う事が出来たのか…
いや、それ以前になぜこの国に入れたのか…
一応ここの警備も尋常じゃないほど硬いときく。
父もこの故郷であるイジスチールに帰るときはとても大変なのだという。
この国の出身者さえも入国は難しい…
そんな国にどう入国したのか…
そういえばエステニア人と聞いた…
テレポートでも使えるのか?
「まぁね…」
「!!?」
僕は声の方を振り向いた。
しかし、そこには公園のいかにもつくられた木々の林だけがあった。
「まったく面倒な国だよ…何故なら常にこうやって姿を隠しておかないといけないんだから…」
一体どうやって、それ以前にテレポートって…
僕はそんなことを思いながらまた正面を向いて座る。
どうせ姿も見せないのだ。
まぁ、当たり前だけど…
「君はエステニアを信じるかい?」
ふと、その言葉に意味を感じた気がした。
「僕に信じるものなどありませんよ」
冷ややかに、冷徹に言った。
それ以降返事が来ることはなかった。
このときの僕は壊れていたんだとその時自分では気づかなかった。
=====
気がつけば朝になっていた。
どうやらいつの間にか眠っていたようだ。
そして辺りにはたくさんのタキシード達…
どう言うことだろうか?
正面にはライアがいた。
「…おはようございますですわ。ワタクシにしてみれはとても信じられないですわ…野宿なんて…」
はぁ、とため息をこぼし頬に手を当てる。
まったく、こんな動作がよくできるものだ。
僕はただなにも言わず観察した。
どうせ僕が口を開いたところでなにかかわるものなどないのだから。
「…あなた、昨日誰と話してましたの?」
来ると思ってたからにその一言にはうんざりした。
きっとこのライアとタキシード一味は昨夜ずっと僕を監視していたのだろう。
「独り言ですよ…よくぽろっとあるんです」
「そんなわけないでしょう?」
あぁ、またそれだ。
なんでそんなに知った風に言うんだろう?
どうして?
うんざりだ、こんな国…
僕は思った。
きっとエステニアにはそんな鎖なんてないだろう…
『なら来ればいい。俺が連れてってやるよ』
聞き覚えのある声。
頭にだけに響くどこか優しげな声…
なんだかとても安らげる人間味のあるこの声を僕はもう楽しみにまでしていたようだ。
もうつれていってくれて構わない…
『承知した』
声とともに目の前は暗転した。
いや、正確には黒いマントが視界を覆ったのだ。
「な…なんですの!?」
「ほぅ、ここの科学はまだまだのようだな…この程度の現象を理論で片付けられないようじゃ頓挫するだろうよ!」
なんだかとても気持ち良さそうにいい放つ。
たぶん気持ちいいんだろうな…
僕には顔を伺うことはできないが…
「なんですの、あなた…どこかで見たことあるような……」
「気付かないとは少し悲しいなぁ…では、改めてエステニア・ドゥ・ニア国出身者、死神のヴォッドリース・ルア・シャセルニアだ!今度は覚えとけ!」
その言葉をよく理解し終わる前に僕は無重力体験を味わった。
「!!!?」
「どうだい?別に重いとは思ってないけど女性の体をまだ見ず知らずの男が触れば不謹慎だろ?」
「その配慮で浮いてるって!?」
「そゆこと♪」
まぁ、その配慮はありがたい。
しかしこの標高がどんくらいかは知らないが雲の上で支え無しは怖いに決まってる。
「そゆことっ……じゃなぁぁぁい!!!!」
そして読者諸君…僕の事を男と思っていなかったかい?
「まぁまぁ、さぁ!見てみな!」
僕の中の印象の教授ではない真っ黒な教授は地面を指差す。
「あれが俺の出身国エステニアだ!」
そこには緑溢れる神秘的で美しいエステニアがあった。
「……………」
僕はただ呆然とするばかりでただその美しい緑を見つめ続けた。
「そういえば、君はエスペラント語がわかるかい?」
国の入り口と思われる前でそう問われた僕。
「えぇ…一応は…」
とはいえ、僕はただ父の研究資料を読み漁っていただけだ。
自信があるとは言いがたい。
「そか、なら大丈夫だな。じゃあついてきてくれ」
案内されたのはなにやら赤い柱で作られた四角だ。
「これは鳥居っていうんだ。彩萠、審判よろしく」
「審判?どうゆうことですか教授…」
僕は焦りながらも訪ねる。
「 Bonvenon Esutenia
(ようこそ、エステニアへ)
Mi Ayame
(私は彩萠)
Mi faros de nun ju?o
(いまから審判をします)
Ne malfacila kiel tiu, ?i estas simpla
(そんな難しくなく、簡単なものですよ)
」
そういいながらにこやかに笑う。
そのエスペラント語は僕にとって初めて話しかけられた言葉だった。
「 Estas feli?aj por mi…」
「……合格だろ」
思わず漏れたそんな僕の囁きに教授はそう呟いた。
「そうね、合格だわ。ようこそ、エステニアへ」
どうやら彩萠さんもニホン語が喋れたようだ。
「え…僕こんなんでいいんですか?」
あまりにも簡単すぎて呆気にとられてしまった。
「簡単だと言ったじゃありませんか」
彩萠さんは笑いながら言う。
僕はたまらず教授を見る。
「彩萠のとおりだよ。さ、こんなとこで立ち話していても仕方ない…入ろうか」
そういって鳥居といわれる赤く四角いものをくぐる。
「鳥居って、なんのためにあるんですか?」
見上げて見れば正面から見ていた時よりもわりと太い柱が使われていた。
「まじないだよ…さっき君はエスペラント語が喋れただろう?あの彩萠は鳥居の番人でエスペラント語が喋れない者は通さないんだ」
「………そうなんですか…」
番人にしてはあまりゴツい人とかは無理そうだけど…
「彩萠は他人の寿命を操れるんだよ」
平然となんだか怖いことを教授は言ってくれる。
「あ、あとさ…教授ってやめてくんないかなぁ…」
困り顔でそんなことを言う。
しかしとても失礼ながらどんな名前だったかまったく覚えていない。
「えと…じゃあなんとお呼びしたらいいんですか?」
「そんな敬語もいらん…俺はイジスチールだけの肩書きとして教授という役職を名乗っただけであって本職はそんなつまらんもんじゃない…」
「そういえば死神って言ってましたよね?」
「まぁ、これも好きでなったわけではないが、ノーマルな教授って呼ばれるよりは大分ましだな…」
教授がノーマルとは…
この人の基準はよくわからない…
「とにかく、俺とはタメ語で、そんでヴォッドって読んでくれ」
いままで考えてることすべてに突っ込んできたのに今回はなかった…
実は自覚あるのかも…
「…………」
「てか、なんで心がわかるんです?」
そう、いままでなんだか違和感あると思っていたらこれだ。
なんでか口を開かず会話が自然と成り立つなんてなかなかない。
というか、いままで経験したことがあるはずもないのだ。
心を読める人なんていなかったんだから…
「うーん、、、これは俺の特技とも言えるからなぁ…」
「特技?ということはつまり、死神さんにしか出来ないんですか?」
「死神さんって…おまえなぁ…俺はヴォッドっていってるだろ?」
「いきなり呼び捨てなんてできませんよ…もともと僕にはほぼ皆無の友達人数です。コミュニケーション能力がそんな高いわけないでしょう?」
「う…まぁそうだろうけど、俺はヴォッドって呼ばれたいんだよ………」
なんだか膨れる死神さん…じゃなくてヴォッドさん…
「なら、ヴォッドさんで勘弁してくださいな…」
僕はそういって肩をすくめた。
「…仕方ないな…いつかは慣れてくれよ?」
なんだかちょっぴり寂しそうにしながらも了解してくれた。
心の広い人だ…
「さぁ、ここが俺の家だ」
こうしてエステニアの生活は始まった。
引用元:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7173657
「すごい……」
ヴォッドさんに案内されたどり着いた家…
それは家と言うより岩の一部と言ったほうが正しいかもしれない。
「ヴォッドさん、これ、本当に家なんですか?」
「うん、まぁそんなもん」
なんだか適当にあしらわれた気がするが、まぁそんなことはおいとくことにした。
「さ、入って」
岩に無理やりこじつけたようにしかみえない扉を潜り僕の心臓は更に高鳴った。
「……………………!!!!」
中はまるで海の中のようなブルーの光で包まれ、ゲームでありがちな水晶でできた光輝く洞窟…
そんな僕の中ではゲームでしかありえないものをごっそりつめこんだものが目の前に広がっていた。
「どうだい?気に入ってくれたかい?」
マントを脱ぎYシャツとズボンだけになったヴォッドさん。
かなりスタイルがいい美男子だと今さら思ってしまった。
「………なにもかも素敵です」
「なんか要らん要素も含んでないか?」
「気のせいですよ♪」
「そうかぁ…?」
心読めるのだから確認しなくてもいいのに…
「まぁいいや、座りなよ」
進めてくるのは何製なのかわからない椅子。
とりあえず堅いのはわかる。
が、透明度が高すぎて見にくいことこの上ない。
「…………」
普段味わうことのない緊張をもって座って見る。
うん、ある。
僕はホッと息をはいて改めて辺りを見回す。
住んでるというには家具など全くないもよう。
強いて言うなら気になるのは中央の空間。
そこだけ天井が薄いのか、太陽の光が注していた。
もちろん部屋全体に光を届けてるのもその空間でなんだかステージみたいだ。
「はい、紅茶…飲めるか?」
「ありがとうございます」
ほかほかと湯気をあげるカップをうけとる。
一口含むとなんだかとても安心できる味だった。
「…落ち着いたか?その、正直君には悪いことしたんじゃないかって思ってるんだ…」
「いきなりなにを言うんですか…第一つれいってほしいと頼んだのは僕です。あなたはなにも気に病むことはありませんよ」
そうだ、あの鎖だらけのイジスチールに僕は嫌気がさしていたのだ。
「そうか…ならいいかな…」
本気で気にしていたのかホッとしていた。
「心が読めるんじゃないんですか?」
「エステニアでは心を読むことは禁止だからな」
「え?そうなんですか?」
それは意外だ。
なんせ夢に幻ファンタジーの世界だ。
てっきりそうゆうものを使い放題なのだとばかり思っていたのだ。
「そんなことはないぜ…」
ヴォッドさんも紅茶を一口すすり語り出した。
「ここは確かになんでもいろんな力を使う者がいる…だからこそいろんな衝突や争いも多かった。もちろん尋常じゃない力の持ち主が勝つのは当たり前でなにより辺りを巻き込む規模が桁違いだった…だからこの国では争いや衝突の起こりやすい力の仕様を禁止したんだ」
「衝突の起こりやすい力…」
「あぁ…俺のように勝手に心を読めてしまう…これは完璧に相手の裏をかけるだろう?」
「あ…確かに…」
「と同時に相手が自分にどういう感想を抱いているのか…とかもわかってしまう」
「なんだかそれは不便ですね…」
そんな力をもって言れば僕はきっと悪口を言われるか空気のように気にすらされていなかったかもしれない…
「だから俺はこの力を使うのを禁じられたってわけ」
「そうなんですか…でもたまには使ってみたいとかってないんですか?」
「そりゃ無いこともないが、俺は争いや衝突なんて嫌いだしなのよりこのエステニアが好きだからな」
つまりは愛国心…
僕にとっては無縁の産物であり、それは憧れ…
どおりであの鳥居をくぐってからというものなにも反応してこないのか…
「羨ましいです…」
「ふふっ…それは嬉しいな♪ま、君も今ではエステニアの領域にいるんだ。イジスチールじゃ体験できないことをたくさんしとくといい」
「え、本当ですか!?あの、僕、外を散策してみたいんです!」
「あぁ、いってらっしゃい~」
そうして僕は初めて自分の意思で外へと歩を進めたのだった。
扉をけると外からまぶしいほどの光が入ってきた。
「…!!」
そんなことなど気にせず勢いよく扉を開け放つ。
ざわざわと自然の風が心地いい。
ここに来る途中、僕はとにかく気になるものをたくさんみた。
キラキラ光る木の実や図鑑でしかみたことない動物や木や花…
粒子をまきながら飛ぶ妖精たち…
その一つ一つをじっくり見ていこうというわけだ。
「あの………」
「…!!!?」
そんなわくわくどきどきを妄想している最中に背後から声をかけられ本気で心臓が飛び出るかと思ってしまった。
「え、と…どうしたんですか?」
振り向くと僕よりさらに身長の低い大人しそうな女の子がいた。
見た目は13~4歳くらいでフリフリでいかにも高そうな水色のワンピースに白のウェーブがかったロングヘア、紫の瞳をしていた。
「…もしかしなくてヴォッドさん?」
身長、左顔面を除けばカラーリングは教授そのもの。
女の子でフリフリのワンピースと整った顔面はヴォッドさんにはないのだが…
「………そう思っても、そう思わなくても、私のことはシェオナ・パラ・ニース…シェオナと呼んで。」
もしかしても、もしかしなくてもそこはスルーしろ、と言うことなのだろうか???
「わかりました。シェオナさん。それで、ご用件は?」
「敬語嫌。さん、いらない」
「……………シェオナ…僕に何か用?」
僕は敬語をなくすと刺々しいと良く言われ続けた。
もちろん友達がいない原因もここにある。
しかし、シェオナは敬語もさんもなくなったことに機嫌を良くしたのか満面の笑顔になった。
そして一言こういった。
「守護する♪」
………うーん。
見た目からするに僕より弱そうなんだけど。
てか、もし仮にこの子がヴォッドさんだった場合。
明らかにさっきの方が強そうだ。
「駄目…?」
思案しているのを感知したのか急に泣きそうな顔になる。
この人は一体何を求めているんだ?
「………………いいよ」
とりあえず、僕はまだここのことをよく知らない。
なにか危険があったときに不安を感じていたからちょうどいい。
敬語抜きは調子狂うけど。
「ん………♪」
なぜそんな嬉しそうなのかわからないまま僕達は出発した。
シェオナは後ろからちょこちょこついてくる。
僕はそんな事を置いといて辺りを散策した。
とても綺麗な花や葉っぱ…
いままで触れたことのないみずみずしさ…
たしかにサラダなどで食べたりしたことはあったが、ここまで生命力を感じることは出来なかった。
そんな植物に触れようとしたとき
「待って…駄目」
シェオナに止められた。
「ちぎったりしないよ」
「違う…毒」
千切るなと言われると思っていた僕はすぐさま手を引っ込めた。
でもなんとなく反抗心で振り向くことはしなかった。
「こんな綺麗なのに毒が?」
「この花…ある悲しみで亡くなった人の化身…」
ゾッとしてシェオナをみる。
「ここは死者の花園…でも一番美しい…」
「死者の花園…」
「こっち…」
そういってシェオナは手を引いていく。
行き着いた先は他の花とは違い綺麗と言うよりはどちらかと言えば普通の花が萎れたようにも見える。
「これは………?」
「…エステニア以外の魂…」
じっと見つめるシェオナの瞳には複雑な感情が浮かんでいた。
「……イジスチールの研究者…」
「!!!!」
これが…父だと言うのか…
他の花達が美しく咲き乱れていると言うのに…
「ふざけんな!」
僕はそう叫ぶと道もわからないと言うのに走り去った。
あの場にいたくはなかった…
こんな現実突きつけれて、いまおもえば僕はいろんな人に振り回されている。
イジスチールの政府や意味不明なシェオナ…
そしていきなりつれてこられた場所は父の墓場。
いつの間にか目の前には池…
僕はいつの間にかその場にへたりこみ泣き崩れていた。
もしかしたら、僕はとても久しぶりに泣いたかも知れない…
いまおもえばいイジスチールじゃ話相手もままならない、本当に一人だった気がする。
当然言葉で責め立てられたり喧嘩したりもなかった。
そんな状況じゃそりゃなくこともないだろう。
どうしてこんなことになっているのか?
父はよくこのエステニアを訪れていた。
そういえばもう19年以上イジスチールには帰ってきてない。
もともとマメでもなく好きなように生きてきた父だ。
手紙なんてよこすわけないしこの状況は当たり前だったのかもしれない。
そう考えれば自然なのかもしれない。
何せ血は繋がっていないわけだし…
僕はシェオナに謝らないといけないかもしれない。
そう思って立ち上がる。
さて、ここはどこだろう?
先ほどの事を思い起こすとなんでも触らないほうがいいかもしれない。
毒以上のなにかがいたら終わりな訳だし…
とにかく、元来た道を帰ればいいかな?
僕はそんなことを考えながらふと池をみた。
とても綺麗でイジスチールにもない産物だなと思った。
でも、そこが目に入ったわけではない。
そこにはたくさんの光がふよふよと浮いていた。
まるで空気の中を泳ぐように、何十も、何百も…
どうせ散策に来たわけだしなにもさわらなければ僕に害はないのだ。
それなら好きなだけここであの光を見つめてもいいのではないか?
僕は水辺に座り光を見つめた。
辺りは少し暗くなって来ていて空は夕暮れ、緑の木々は幻想的な暗い青色となっており、より一層光が浮かび上がって見えた。
直感でもうすぐ夜になるなと思った。
それでも僕は自然と不安になることはなかった。
なんだか自虐的だなぁと思わず笑いがでてしまう。
光はずっとふよふよしていて消えることはない。
辺りはだんだん暗い暗い黒に染まってゆく…
いつしか黒の中に狐火が浮いてるような…
「え?狐火?」
僕はハッとして辺りを見渡す。
思えばすでに陸も水面も判別はない。
正確には異空間。
「いったいどういう…」
「今頃気づいたのかしら…馬鹿ね…」
「???」
辺りは真っ暗、見えるのは狐火。
この状況では相手がどこにいるのかなんてわからない。
「ここは異空間。まぁ、普通の異空間じゃないわよ。それにべつに私の作り出したものでもない」
「じゃぁ一体誰がこんなことを?」
僕は得体の知れない人と会話をする趣味は持たないがかといってこの空間は異様であり心地いい。
「そう、その考えは当たってるわ」
「どういうこと?」
「異様は感じても心地いい…これはつまり自分自身が当てはまるとは思わないかしら?」
「…………」
言われてみれば…でもないが、だとしても僕にはそんな力があるとは思えない。
「あら、あなたこの湖の神秘を知らないの?」
「知らない、迷子でここにたどり着いただけ…」
そう、事実僕は狙ってここに来た訳じゃない。
ましてやもといた場所に帰りたいほどだ。
「そう、じゃあ仕方ないわね…その湖は「心理の鏡」と言われているわ」
「心理の鏡…」
「そうよ…その意味はわかるわね」
そう言われ改めて湖とそこに浮かぶ光を見つめる。
それが表す意味なんてわからないけど、なんとなく直感ではわかる気がした。
僕はここで変わりたい。
このエステニアで…
あの締め付けられたイジスチールではなれなかった僕に。
「答えは見つかったかしら?」
「うん、見つけたよ」
そして視界は眩しく白い光に覆われた。
そして感じる肩の重み。
傍らを見ればシェオナがすやすやと眠っていた
===
「ん…」
「おはよう、シェオナ」
目をごしごしと擦るシェオナ。
僕があの異空間から現実に帰ってくるのとシェオナが目を覚ますのはほぼ同時だった。
「おかえり………」
まだ眠たそうな目でそういってくれた。
「また助けられたね」
「………?なんの話?」
「え?あの異空間で僕に語りかけてくれたろう?」
するとシェオナは訝しげな顔をして否定した。
それでは一体あれは…
「きっと時空神」
「時空神?」
「うん…時空を操る神様。でも、性格的に信じられない…」
「性格悪いとか?」
「高飛車」
「……………(苦笑)」
僕のイメージだと神様はみんな高飛車なんだけど…
「運…いい…」
「運がいい?どうして、神様にあえたから?」
「時空神、引きこもり」
際ですか(苦笑)
あんまりボロクソいうと祟りにでもあいそうだ。
これは早く話題を変えなくては…
「そういえばここどこ?」
地元人のシェオナならわかると思ったんだけどまさかの
「知らない」
の一言。
じゃあ帰れないじゃないか…
「まぁ…」
そういって立ち上がると僕もたたせる。
「いくよ?」
バサッ!!!!!!
白い天使の翼が広がり重力が消える。
見ればシェオナがリードするように空中に舞い上がる。
僕を支えるのは華奢なシェオナの腕とそれを掴む僕の腕。
「…………………………」
ここだけの話、叫びたい。
むちゃくちゃ怖いのだから。
雲の上とは言わないにしても地上10m以上はあるのだ。
「…シェオナ…もしもヴォッドさんだとするなら今すぐ抱えて欲しいんだけども………」
むしろ僕的にはヴォッドさんでいてほしい。
「………………………………………嫌」
「まって、否定しないで…てか、なんで拒否!?」
拒否されたのに同様していると不機嫌そうなヴォッドさんに姿が変わり僕はなんとか冷静に戻ることができた。
というか、やっぱりヴォッドさんだったのか…
もちろん抱えられていても恐怖心は健在のためしっかり服を握りしめている。
「…………………なんでそんな不機嫌なんですか?」
「誰のせいだろうな…」
嫌味かよ。
ちょっと居心地悪いけれどだからといってこの手を離す訳にはいかず僕はまたヴォッドさんの顔をまじまじと見つめることにした。
よく見ればシェオナの時とそう骨格は変わらない。
身長と色以外はそのまんまなのかもしれない。
左顔面だけが気になるけど…
「……お家、ついたらシェオナに戻っても構いませんよ」
「……………………」
ジト目で返された。
うぅ…なんで僕はこんなにコミュニケーション能力がないんだ…
そんな気まずい時間を乗り越え家についた。
そういえば翼も白い天使の翼から黒い悪魔の翼になっていた。
まさか、好きで死神になったのではないのかも…
死神と呼ばれるのも不服そうだったし…
そんなことを考えながらあの見えない椅子に座る。
「…………あのさ」
僕はヴォッドさんにタメ語を試みることにした。
ヴォッドはというと少し驚いた顔になる。
「僕のこと、まだ名前で呼んでくれてないよね?」
「あぁ……そういえば……」
「僕は李生っていうんだ…君とかって呼ばれるより名前で呼んで欲しいな」
「…わかった…」
わりとあっさり頷くんだな…
なんだかヴォッドさんにはとりつく島もないきがする。
シェオナの時はかなり突っ込みポイントがあったと言うのに…
意識的になにかが違うのかもしれない。
僕は何をするでもなくテーブルを見つめた。
ここに来てまだ数時間しか経っていないというのにいろいろなことがあった。
自分自身をもう一度見つめ直す必要が大いにあると思えるほど、現実を突きつけられた。
イジスチールでは非現実のものに現実を知らされた。
エステニアのことをまるまる信じていなかった自分としてはなぜこんなに納得できるのかわからない。
だけど全然疑問なんてうかんで来なかった。
あー…
だんだんと眠くなってきた…
ふと視線をあげた。
視線の先にはシェオナが料理をしていた。
うむ…手伝うべきだろうか?
「手伝おうか?」
声をかけるとシェオナはピタッと動きを止めた
あ、怒られるか…?
「うん…………」
振り向いた時の目にはたくさんの涙を浮かべていた。
話によればヴォッドさんはかなりの料理音痴らしい。
シェオナになれば幾分かましらしいが何かを作れる程ではないらしい。
結果なんにもできないにたどり着くわけなのだが、どうにもその事実を伝えられなかったらしい。
「言ってくれればすぐてつだったのに…」
よもや手伝いレベルではないけれど…
「ごめん…」
小さくいうとシェオナはおとなしく椅子に座った。
こういうのが出来ないというのは今までの一体どうしてきたのだろう?
まさか飲まず食わず?
食材も隣人からの頂き物らしく冷蔵庫などない。
僕はその貰うにしては多すぎる食材で簡単な野菜炒めを作ってあげた。
皿に盛り付けまたまた頂き物のパンを添える。
「できたよ」
すっかり落ち込んでいるシェオナに差し出す。
「いただきます…」
パクっ
美味しそうに食べるものだからなんだか見とれてしまう。
そして結局最後まで僕はシェオナを見続けていた。
自分が気持ち悪いなと思っていたが、そんな僕をほっぽって食べれるシェオナもなかなかの神経の持ち主と思われる。
「…………食べない?」
「つい、見とれてました」
「………それは…」
うん、何を言いたいかはわかる。
「それよりも、明日エステニアの殿下に挨拶にいくぞ」
急にヴォッドさんに変わり僕はパンを喉につまらせそうになった。
「…………いきなりかわるのやめてください」
「…でもあの姿でこの口調は嫌だろう?」
「別に…」
「……………」
「………………」
この人とは長くやっていけそうにない。
考えが違いすぎるのもある。
というかわりとヴォッドさんはことあるごとに気を使いすぎだと思う。
僕だけかもしれないが…
「とりあえず、だ。殿下はここエステニアを支配してる。まぁ、いわゆる王さまだ。気に入って貰えないと食われるかもしれない」
「人間を!?」
「一応、悪魔だった気がする」
偉く曖昧な…
つまりは明日、ここの大統領みたいな人にあって気に入られろってことなのか?
気に入られなかったら食われると?
無茶苦茶な話だ。
けれどここに来たからには多分挨拶くらいはしないといけないということか…
そう思いながらも僕は食われるという単語が気になって仕方ない。
「………だから明日はかなりいじらせてもらう」
「いじる……?」
「一応、ここの仕来たりだからな…イジスチールの衣服はちょっと浮くからな…街だと…」
なるほど…
いま思えばまずお風呂にすら入っていない。
それにこの服…確かに浮くかもしれない。
きっとここじゃお目にかかることはないだろう生存確認のLEDライト付きブローチとか静電気で開閉可能ボタンとか…
まずエナメル生地がないのでは?
「街、あるんだ…」
ここはすごく緑に溢れとても人間なんて住んでいないと思っていた。
「まぁ、な。でも普通には入れないとこにあるんだ」
「普通に入れない?」
「それは明日にでもわかるさ。それよりシャワーどう?」
「是非!」
やっぱりヴォッドさんは心を読んでいる気がする…
なんせこんなタイミングでシャワーを薦めるとかどんなまぐれだというのだ。
いや、でも流れ的にそろそろ入りたいかな的疑問はあったかもしれない。
人工的ではない水が気持ちいい。
どうやら元々シャワーなんてなかっただろうに、透明な氷のようなシャワーのホースが水源に突き刺さっている。
一体どんな仕組みで水を汲み上げているのか追及したいほどだ。
「ふぅ……」
久しぶりのお風呂。
そういえば野宿なんてのも体験していたから結構入ってなかった。
僕はふっわふわのタオルで体をふく。
ヴォッドさんに可愛いパジャマを貸してもらった。
なぜこんな可愛いパジャマがあるのかなんてもう聞く気もおこらない。
サイズはピッタリ。
さすがヴォッドさん。
「……お、お帰り」
お皿を洗い終わったようでヴォッドさんはキッチンから出てきたところだった。
「パジャマありがとう…ピッタリでびっくりした」
「それはよかった♪ただイオの好みがよくわからんから気に入ってもらえたかは不安だけど…」
「いいよ…イジスチールにない感じだから新鮮」
イジスチールではあまり個性的なものは好まれない。
機械的でシンプル。
色物なんてLEDライトぐらいだ。
強いていうなら自動で染められる髪。
僕は小さい頃から赤色に染められ続けた。
実際自分の髪が何色なのか知らない。
なんでか服に個性が内ぶん髪には非常にカラフルな色が使われる傾向がある。
そのためこんなフリフリでひらひらなパジャマはない。
「新鮮…イジスチールってなんか人間味ないもんな…」
神妙に頷くヴォッドさん。
「人間味って…ヴォッドさんに言われたくないかな」
よっぽど死神っぽくないのだから。
「…む、そんな言われてもだな……」
ぶつぶつとあとの方はなにを言ってるかわからなかった。
「とりあえず、今日はもう眠っていい?僕なんだかかなり疲れて…」
「お、おう…」
すると僕の座る透明の椅子の後ろに布団が出てきた。
「雑魚寝でいいか?生憎ベッドなんてなくてな…」
「いいよ。じゃ、おやすみ」
僕はふかふかの布団に潜り込む。
まったく何日ぶりの布団だろうか…
すぐさま睡魔が僕を夢の世界につれてった。
===
翌朝、覚ますととんでもない異臭が部屋に蔓延していた。
急いで飛び起きキッチンへと向かう。
「!!!!!」
中は黒い煙で一杯で何がどこにあるかさっぱり見えなかった。
「ヴォッドさん!!?」
煙を払いのけガスの火を止める。
幾分もするとだいぶ視野が明るくなってきた。
「大丈夫?」
「…やっぱり俺に料理は向いてないのか…?」
しょんぼりしながらこちらを見るヴォッドさん。
「向いてない云々よりしないほうが身のためだと思うけど…」
「じゃ、今日もお願いします……」
パチンと指を鳴らすとすぐにキッチンは元通りになった。
掃除いらずで便利な力だなぁ…
「ん…向こうでおとなしくしときなさい」
「はい………」
割りとヴォッドさんは素直らしい。
これは昨日気付いた話だけれど…
ヴォッドさんにはやっぱり死神なんて似合わない。
本人も嫌だといってるのだ。
それだけ似合わないし向いてない。
でもそれを名乗らないといけないのはやっぱりそういうこの国の決まりごとなのだろうか?
僕は卵を手早く割り、フライパンに目玉焼きをつくる。
この作業をヴォッドさんは出来ないというからすごいもんだ。
僕は綺麗に焼けた目玉焼きを皿に写しパンを添える。
「こんなんでいい?」
僕はヴォッドさんに差し出す。
「いい…俺には出来ない芸当だよ」
「………さ、食べよう?」
どっちがこの家の主なんだか…
僕は料理ができるだけで家主より強い立場に立ってしまった。
「と、いうか…いままでどうやって生きてたのさ…」
僕は目玉焼きを半分に切り分けながら聞く。
「う…食べずに生きてた…」
「え…?」
「まぁ、そのたまには頂いたりしたらこう…作ってくれたら嬉しいな、みたいな?」
なるほど…
元々食べなくても生きていけるのか…
「今回はじゃあ僕にあわせてくれてるの?」
こくんと頷きパンをくわえるヴォッドさん。
僕はどうやら迷惑かけてるみたいだな…
ここに連れてきたのはヴォッドさんだけどいい加減お世話になるのはいけないのかもしれない。
今日はここの王様に会うわけだし家一個くらいもらえないか聞いてみよう。
そんなことを考えふと顔を上げると不安そうな目でこちらをみるヴォッドさんと目があってしまった。
「……………」
何かいいかけるが何も言わず皿を片付けに行ってしまった。
正直、絶対いま心を読んでいた。
必ずという確信がある。
なによりあの不安そうな目。
あれは一体なにを意味しているのだろう?
僕も素早く食べ終えヴォッドさんの隣にいく。
「ヴォッドさん…正直に話してよ」
「…………ごめん…いま考えてる通りだよ」
「…………………そか、ありがと…」
やっぱり素直だ。
ホントに死神なのかな?
なんかそこから怪しい。
というかヴォッドさんのことは料理が出来ない以外のことはなんにもわからない。
僕は何も言わずにリビングに戻った。
「なにも、聞かないのか…?」
不思議そうに来てくるヴォッドさん。
「別に、ヴォッドさんは素直で正直すぎるのを確認しただけ」
「……それって、褒めてる?」
「うん」
なんだか納得できなさそうな顔。
「まぁ、いいや…いまから準備させてもらっていい?」
「いいよ」
「じゃあこっちきて?」
そこはあの唯一の光の下。
この家全体の光源だ。
そこにいくと頭上から眩しい光が降り注いでいる。
「はじめるよ?」
しゃっと手を横に払うと大きな鎌が現れる。
これを見るとあぁ、死神なんだなと思ってしまう。
そして鎌を掲げ
「La granda suno
Nun, a?skultu la vo?on de la Grim Reaper
Orbito de la tero la? la lumon
Sub ta?ga por la re?o
Por rikoltilon Mian sanktan povon」
物凄い早さでなにかを唱えると頭上から目も開けられないほどの光が僕を襲った。
「…………大丈夫か?」
なんだかガンガンする頭を無理やり起こすとヴォッドさんの手をとる。
その手を見て驚いた。
頭上から降り注ぐ光の反射でキラキラ輝くエメラルド…
それは僕の腕に絡むようにうねるシルバーの上で輝いていた。
よく見れば僕は中世の王宮の人が来てそうなドレスに身を包まれていた。
「すごい……」
「それは正式に認めて貰うために仕立てたんだ。それよりも、イオは地毛のほうが綺麗じゃないか…」
「え…?」
人差し指で髪を見てみる。
「桜色……」
「あぁ…綺麗だよ」
そう言って髪にキスをする。
そういうのに縁のない僕は赤面した。
「な…なにしてるのさ!ほら、早く王さまのとこにつれていって!」
「可愛いな…」
可笑しそうに笑うヴォッドさん。
「なんなんだよぉ……」
なんだかこの国にきてからずっとヴォッドさんのペースにのせられている気がする。
「じゃあ、行こうか」
そして僕は人生二回目のテレポートを体験した。
正直、僕は一回目のテレポートをテレポートとは認識していなかった。
何せその時ヴォッドさんにはじめて抱き抱えられ標高なんメートルかの場所に飛んだのだ。
僕はてっきりあの無重力はとんだ弾みのものだと思っていたけどどうやらテレポートによる無重力のようだった。
「大丈夫か…?」
「気持ち悪いです…」
慣れないと酔うらしいテレポート…
一回目は咄嗟のことで気付かなかったのかもしれない。
できれば二度と体験したくはないものだ。
「 Reakiro…」
ヴォッドさんの呪文で緑の光が僕を包む。
徐々に気持ちも楽になってきて収まった。
「ありがと…いろいろ便利だね」
「そうでもないけどな…」
「そうなの?」
「まぁまぁ、かな」
改めて辺りを見渡す。
凄く豪華な金作りの門。
その前には鎧を来た兵士。
そして門の中には悠然とたたずむ白壁の城。
赤い屋根に沢山の大きな窓。
正面には大きな扉にそこに繋がる階段。
門から城までのアプローチは美しく手入れされた庭園。
いままでエステニアで見てきた緑とはまた違う美しさがそこから溢れていた。
いま思えばこの僕のドレスとのマッチさに改めてヴォッドさんを尊敬してしまう。
かくいうヴォッドさん本人は死神としてはじめて出会ったときと同じように真っ黒な服装。
そしてなによりとても気になるのはいままで見たことないような機嫌の悪そうな顔。
例えるなら本当の死神のように、暗く冷徹で非情な、そんな嫌悪感あふれる表情。
正直怖い。
今は兵士の元と口論の最中のようだ。
「ヴォッドさん…?」
「五月蝿い。黙ってろ」
「………………」
「貴様等、ここを通せと言っている。直ちに開けろ」
「いえ、死神には引き取っていただきます」
そう言って剣を取り出す兵士 。
一体どういうことなのか?
ここに来ることは伝えてあるとヴォッドさんには聞いていたけど…
「……そうか、そこまで殺されたいか」
スッと引き鎌を振るヴォッドさん。
これはなんだかヤバい空気だ。
僕はとりあえずこの場から少し距離をおいた。
その判断はあっていたらしく兵士はバタッと倒れた。
「………………」
「…………行くぞ」
振り替えることなくそう告げると先に入ってしまうヴォッドさん。
好きでやっているわけではないにしてもやりこまなければいけないのか?
いまのは明らかに悪役状態だ。
なんだか不安で嫌な汗が流れた。
やっぱりヴォッドさんのことが一番わからない…
とりあえず後に続く。
「…怖かったか…?」
表情は冷徹で暗いまま問うヴォッドさん。
「…はい、正直怖かったです」
どうすればいいかわからなかった。
なにを答えればいいかもわからなかった。
「…………そうか…………」
そう言うと顔を背けるヴォッドさん。
一体貴方はいま何を考えてるのか?
どうして僕には心を読むことは出来ないのか?
数々の美しい花の道を通り扉の前に立つ。
すると誰もいないのに扉は開いた。
でかすぎる自動ドア。
「その認識は違うぞ、御客人」
「…!」
その声は真正面、白く光る壁に掲げられたエステニアの紋章の前。
金の玉座に座る青年。
「なんや、もっと近く来いや、御両人」
僕は戸惑いまくった。
城の広さ、建物の装飾品、絢爛豪華な彩り、その他以下略。
隣のヴォッドさんに目をやるとなんだか気分悪そう。
「大丈夫…ですか………?」
「気にするな…それより、アレの言うことは聞いとけ…」
僕は仕方なく先にあるきだした。
後ろからヴォッドさんも続いてる。
「初顔会わせやな、御客人。俺はこのエステニアの王や。殿下と呼ぶがいい」
殿下は見上げなけらば見えないほど高い椅子に座っている。
「えと、僕は…」
「イオやろ。イオ・サヤマ・アキラクス。貴様大敵イジスチール出身らしいやないか…よくもまぁ、ノコノコとこの城にこれたもんやな」
ギンッと青く輝く瞳に睨まれ僕はたじろいだ。
こんなに打撃を受けるなんて…
「…………………」
僕には何を言い返すこともできない。
イジスチール出身というのは事実であり大敵というのもなんとなくわかる。
「ふん、少しは言葉の通じる奴らしいな…それでなんや、貴様なにしに来た?」
「僕は…ここの…このエステニアの住人になりたいのです」
ここじゃ誰も助けてくれない。
いや、イジスチールでもそれは変わらなかったけど。
本当は今すぐにでもヴォッドさんに救いを求めたい。
けど、直感で今目を剃らせば負ける。
そう感じた。
「ほぅ…それはつまり俺様の下僕となることやぞ?」
ニヤリ、と笑い見下してくる殿下。
「そうやなぁ…でもまぁ、俺様に勝てるなら下僕にするのはやめたるわ。もちろん『力』でなぁ」
勝ち誇ったように腕を組む殿下。
こんなの卑怯だ。
悪質でこちらが勝てないことを知っていながら、こんな要求。
僕は下僕になるしかないのか…?
涙が瞼にたまる。
「なんやぁ?なんでなんも言わんのだ?はっはっは!!!俺様を恐れたか!いい様だな!」
僕は弱い人間なのかもしれない。
バタッ…………
僕はなにも言えずただ耐えていると背後から誰かが倒れる音がした。
僕は振り向く。
嫌な予感。
そう、ヴォッドさんが倒れていた。
「…な、っ…………」
「やっと倒れたか…まったく頑丈な奴やな…」
「どういう意味!?」
僕は殿下を睨み付ける。
「こいつは一度この国からでた。お前の国に行くため」
「それのなにが悪いのさ!?」
「おぉ?俺様の許可を取らずに勝手に出ていったんだぞ?そりゃ下僕には仕置きが必要だろう?」
「下僕っ……ヴォッドさんの方がお前より弱いっていうのか…」
「……………っそう見えなくて悪かったな!とにかく、そいつはここに連れてこい」
その命令で沢山の兵士がヴォッドさんを殿下の前に連れていく。
「ヴォッドさんっ………!」
「…お前はもう帰るがいい。こいつをつれてきた礼にエステニアに住むことを許したろうやないか。さ、『去れ』」
「…!!?」
僕はその言葉を最後に城の外に立っていた。
「どう言うこと?」
先程まで中にいたのに、いまは門の前。
ヴォッドさんは中に…
「てか、ここ…どこ?」
振り替えれば沢山の人で賑わう市場。
露店には新鮮な野菜や果物、美味しそうなお肉やお魚が並んでいる。
普通に散策で来たのならきっと楽しめただろうに…
「あら、また会ったわね」
「!?…」
「あ、姿を見たのは初めてかしらね?じゃあ、はじめまして」
その人は賑わう市場から出てきた。
後ろに執事のような人を連れて。
沢山の玉ねぎを買い込んで………………
「貴女はあの、湖の…」
「そうよ、申し遅れてごめんなさい。私はウィリアラーム・エスパーニャ・サンセルスよ」
「僕は……」
「あら…あなたなんだか顔色悪いわね…大丈夫?」
「……はい」
「………優魅」
「はい、お嬢様」
「帰るわよ」
「承知いたしました」
「今日は私の家においでなさい」
「え…でも」
僕はそんな心境ではないし第一、ヴォッドさんの家が留守に…
「あいつの家よりずっと安全よ。それにたぶん住める環境じゃないわよ…」
なんだか訳がわからない…
この国は僕に一体なにを求めているんだ?
殿下のようにとても嫌って来る人もいればこのウィリアラームさんのようにとても優しくしてくれる人もいる。
ウィリアラームさんに言われるがまま馬車に乗り込む。
なんだかんだいってもヴォッドさんとテレポートであそこに来た僕には帰り道などわかるはずもないのだ。
この人がとりあえず神様って言うことだけは知ってる。
性格悪いって聞いていたけどそうじゃないみたいだし…
「お足元に御注意ください」
優魅さんに手を取られ馬車から降りる。
物凄く大きな大豪邸。
これはたぶんライアの家並みかそれ以上かもしれない。
呆然としていると
「こっちで話がしたいんだけどいいかしら?」
ウィリアラームさんは苦笑しながら問うてくる。
僕は否定する理由などないのでそちらにいく。
そこは噴水のまえのテラス。
白いガーデンテーブルに紅茶がおかれていた。
「お掛けになって」
「ありがとうございます」
ウィリアラームさんの向かいに座り紅茶を一口。
なかなかにいいブレンドがされている。
「イオさん…あなたヴォッドについてどれぐらい知っているのかしら?」
「いえ…まったく…」
なんせ謎多き人物だ。
「そう…彼は自分のことを何て言ってたの?」
「死神…と………」
「………そこからね…」
なんだろう?
「それは大きな間違いだわ…」
「僕もそれは思ってました」
あの性格、似合わなさ…その他のヴォッドさんの行動はなにもかも死神らしくはなかった。
強いていうなら先程殿下の前でだけはなにか違った。
本当の自分を見せないようにしているようなそんな感覚。
「だいたいあたってるわね…」
「え?」
「じゃぁ、あなたは彼が一体なんだと思う?」
そんな質問が来るとは…
僕は考える。
でも答えが出てくるはずもなかった。
「わからないです…」
「そうね…普通はわからないわよね…」
………なにがいいたい?
「…彼は本当は死神ではないの。でもそれも彼自身であり運命なの…」
「もっわかりやすくできませんか?」
「………今まであなたが接していたのはヴォッドの魂なのよ」
「魂…?」
魂と言えばあの幽霊と幽体離脱とかなんかそっちけいのあの魂?
「信じられないかも知れないけどヴォッドはいままで身体と魂を分けて生きてきたの」
「えぇ!?」
それはまた想像のしにくい突拍子のないものだ。
「いろいろと事情があるのよ彼には…」
「どんな事情なんですか…」
「まぁそれはおいといて」
「…」
置いとかれたし…
「それでも年に一度はその身体に帰らないとたましいが消えてしまうの」
「……そうなんですか。で、その身体はどうやって生きてるんですか?」
「冷凍よ」
「………………………………生きてるんですか?」
「…本人の魂が生きてるから生きてると思うけど」
なんだか全然わからないけどまだ先はありありそうだ。
「それで?」
「えぇ…その冷凍した身体に細工をした人がいるのよ…」
「細工を?」
「えぇ…エステニアでは解明できないイジスチールの科学によってね…」
「…!!!!??」
イジスチールの科学!?
この国は父以外に足を踏み入れた人がいたのか…!?
「そいつがね、なにを思ったのかイジスチールに持ち帰ってしまったのよ。私は次元を歪め異界を通りヴォッドの体を探しにいったわ…」
少しずつヒートアップ気味になるウィリアラームさん。
「そこでみたのよ…もしも動き出しても抵抗しないようにって、手も足も羽も切り落とすところを…信じられないわ!!」
「…………………」
僕はなにもいえない。
これがもし本当だとすれば僕がここにいるのは場違いだ。
その残虐非道な人間と同じ国の人間なのだから。
「他にもなにかされていたわ…なにが原因か知らないけどヴォッドは身体に戻れなくなってしまったのよ…」
冷静を取り戻したようで静かな物腰になるウィリアラームさん。
「そうだったんですか…なんにも知りませんでした…」
「無理もないでしょうね…ヴォッドはなにも話してくれないから…」
はぁ、とため息をつき視線を落とす。
そこに優魅さんがチョコレートパイを持ってきた。
「出来立てのチョコレートパイでございます。お嬢様、御召し上がりになりますか?」
「いただくわ…彼女の分もお願いね」
「かしこまりました」
そう律儀にいうと僕の前にも配る。
ライアとも殿下とも全く違う気品。
とても淑やかで高貴な印象だ。
そういえば…
「殿下の言う仕置きって一体…」
「さぁ……」
「受けることないんですね、ウィリアラームさんは…」
「…………えぇ」
ふむ…
とりあえず、ヴォッドさんは魂でほかに身体が冷凍されててでもそれはイジスチールにあって…
「ねぇ、ウィリアラームさん。イジスチールのだれがヴォッドさんの体を?」
「知らないわ…しろなんたらみやって言っていたわね…」
…統治の白之宮。
まさか第一等級家が絡んでたとは…
翠之宮があそこまでヴォッドさんについて必死だったのはこれに関係が?
「あの、ウィリアラームさん」
「なにかしら?」
「城に…時空をいじって行くことは出来ますか?」
「貴女面白い…気に入ったっ!優魅!」
「はい、御呼びでしょうか。お嬢様」
「例の支度をなさい!」
「ふふっ…かしこまりました」
なんだか楽しそうなウィリアラームさん。
「なんだか楽しそうですね」
「楽しむのは優魅よ♪久々に暴れるチャンスなのだからね」
「暴れる…?」
「さ、あなたももう少し動きやすい服装になったらどう?」
「あ、僕は着替えなくて…」
そうだ…
今思えばイジスチールの服の行方を僕は知らない。
「………想像してごらんなさいな」
「え?」
「イメージよ。ここエステニアでは誰もが力が使えるようになってるのよ。もちろんそれはあなたも例外じゃないの」
「……」
それは初耳だ。
ヴォッドさんはそんなこと教えてくれなかった。
イメージする…
だけどちゃんとイメージできない。
どんな服にしようか…
「迷ってるならそのドレスの裾が短い感じでも想像してみたらどうかしら?」
「あ、いいですね」
それならすぐできそうだ。
僕はイメージする。
すると…
「!」
「成功みたいね」
みるみるうちにドレスの裾は短くなり膝辺りまでで整えられた。
「凄い…」
「ここは生命神の加護が一番届くところだもの」
「生命神…?」
「後にわかるわ♪さ、向かう準備は整ったかしら?」
「はい、お嬢様」
いつの間にかカッコいい燕尾服を身にまとう優魅さん。
凄くきまってる。
「じゃあ、乗り込みましょうか!」
=========
『回り出す…今』
巡りめぐる世界の旋律。
届かない闇の奥、気付けない虚無の果て、有るのに触れることのない幸運。
歯車は、今、噛み合った…
引用元:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7173686
「なんだ君たちは!!?」
城の兵士たちは一斉に襲いかかってきた。
数でいうなら圧倒的にこちらが不利な状況である。
にも関わらず優魅さんは兵士達を次々と倒していく。
「凄いですね…優魅さん…」
「結構ストレス溜めてしまったもの…ここで発散してもらわなきゃ♪」
涼しい顔してそんなことをさらっといってのける。
因みになにが凄いって実は優魅さん氷と電撃を操れるらしく兵士達はその氷で固まったり、電撃で麻痺して倒れこんだりしている。
そうして進めるようになった廊下をウィリアラームさんはスタスタと歩いていく。
これはかなりありがたい助っ人だったかもしれない。
僕一人ならもうこの時点でアウトだっただろう。
そういえばウィリアラームさんは強いのだろうか?
「お嬢様、全て片付けて来ました」
「そう、少し物足りないかもしれないけど我慢してね?」
「はい、自制は効いておりますが…あえていうなら後程褒美を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「…いいわよ。さ、あそこよ」
そう言って指差す先には光が漏れるドアがあった。
「あそこにヴォッドさんが…?」
「魂の方ね」
僕はその扉に近付く。
ドアノブに手をかける。
「遅かったな…」
ドアのなかからは殿下の声…
ガチャリッ
「………………」
そこにはベッドで眠るヴォッドさんとまるで看病するように傍らに座る殿下がいた。
「本当は国外のやつにこんな俺様は見られたくなかったんやけどな…」
そうやって寂しそうに微笑む殿下。
昼間、威厳と品格が溢れだしていた殿下とはまるで違う、たぶん本当の殿下。
「いいんじゃないかしら?」
後から入ってきたウィリアラームさんは言う。
「…ねぇさんを留めておけるのは貴方だけ…そしてねぇさんが連れてきたこの子には知る権利があるわ」
「そうだな…」
「あの…ねぇさんって…」
今の話の流れだとヴォッドさんはウィリアラームさんのお姉さんということになってしまうのだが…
「…義姉よ……私を拾ってくれたのよ……」
「それでも、ヴォッドさんは男なんじゃ…」
「…イオ、だったか?貴様こいつの女性体を見たことないわけじゃないやろ?」
女性体…
シェオナなら見たことあるけども…
「こいつはもともと中性なんだがな…そこの蛭子神を拾ったときは女性だったんだ」
「今は蛭子神ではないわ!」
何故か急に強く否定するウィリアラームさん。
「あ、ごめんなさい…話がめちゃくちゃになったわね…」
「いえ…」
むしろいろんな真実がわかりそうだったのに…
「…殿下はちょっと特別でね、ヴォッドの魂を維持する力があるのよ」
「今朝は驚かせて悪かったな…こいつ自分を犠牲にする体質なんでな…ここまでしんとほんまに消えるまで一人で解決しようとしてまうんや…」
「そうだったんですか…」
そんなことはちっとも知らなかった。
まず、なんにも教えてはくれなかった。
「でも、僕にはいまだに謎なんです」
「なにが…?」
問う殿下。
それは貴方も思っているんじゃないのか?
「僕はなぜここにつれてこられたのか…です」
そう、最初から身体が目的でイジスチールにきたのなら僕の元に来ずその身体のところで科学者に問い詰めればいいのに…
「……………それは、」
「待て」
「!!!!!」
「ヴォッドさん!?」
「…催眠を解くのが早すぎだ」
殿下が噛みつきそうなのをウィリアラームさんは止める。
ヴォッドさんはされるがままって感じだけど…
「それは話しては駄目だ」
「なんでだよ!?こいつが鍵なんやろ!?」
「だとしても、だ…」
そうやって殿下を宥めるとヴォッドさんが僕を見た。
「………………」
「…イオ…俺の我が儘きいてくれないか?」
「なにをしてほしいんですか?」
僕はベッドの傍らに座る。
よくみればヴォッドさんはかなり存在感がなかった。
言われてみればいつもどこからか不意に現れることが多かった気もする。
「それは言えない…でも、きっとイオなら気付いてくれると信じてる…」
「…………」
それはなぜ言えないのか…
言えないことが多すぎると思う…
「全て終わったら真実を話すから…」
「…………わかった…じゃあ僕はどうすればいい?」
ヴォッドさんは素直で正直だ。
きっと後でちゃんと話してくれるだろう…
「×××××××××××××××××してほしいんだ…」
「え…………わかった…やってみるよ………」
僕は自信なさげに言った。
「正気か!?人間に出来るわけないやろ!?」
「…でもこれは僕にしか出来ない」
「そうかもしれないが…」
「ウィリアラームさん…僕を連れて行ってください」
そこは散策で歩いて、とある現実を突きつけられた場所…
父の花…
『君のお父さんと話をしてほしいんだ』
ヴォッドさんの言葉。
内容は語れない…
察してほしいと…
「ウィリアラームさん…ありがとうございます」
にっこりと微笑み僕は礼を述べた。
今思えばここに来てたらうまく笑えるようになった。
「やり方…わかるかしら…?」
「わかりません」
「触れればわかるわ」
父の花…
死者の花園…
毒とはもしかしたら彼方(あちら)にいく何かの効果があるのかもしれない…
「それじゃぁ、行ってきます」
========
「………草原」
ザワッ………
見渡す限りの緑の絨毯。
永遠に続くように広がる地平線。
こんなになんにもないところがあるなんて…
『イオ…』
「…!父さん…」
草原のなか、ポツンと一人立ち尽くすのはもう何年とあってなかった父親。
『…ここにきたってことは、真実を告げる時がきたんだね』
父さんはなんだか儚げに笑った。
「父さんは全てを知っているの?」
『…驚かないで聞いて欲しいんだ』
急に真剣な顔になってそう言う父さん。
「わかった」
『最初に、イオ…君の事からだ』
「え…?僕?」
静かに頷くと
『イオ…君はイジスチールの人間ではないんだ』
え…?
『僕自身がエステニアの住人でもある…僕は幼い頃、エステニアに侵略を計ったイジスチールの人間に拉致されたんだ』
「…」
『もちろんその頃でもエステニアの不思議な力を使えたエステニアはイジスチールの勢力を鎮圧することに成功した。だけど…その力はエステニア以外では発揮することは出来なかった…拉致された何人かはイジスチールの政府によってその不思議な力の解明のために研究材料にされたんだ』
「そんな…」
信じられなかった…
でも、同時にあの僕に対するイジスチールの現状を知っているがゆえに納得できた。
『そんな中、幼かった僕はイジスチールの常識を叩き込まれエステニアについて調査を命じてきたんだ』
「どうして父さんだけ?」
『一番幼かったからね…まだ自我も目覚めていなかったから調教しやすかったんだろう』
「………」
『そうやって僕はイジスチールのために知らず知らずのうちにエステニアを売っていたんだ…だけど、研究を進めるうちに僕はこのエステニアこそが自分の故郷なんだと気づいたんだ…そのときはとても後悔したよ…』
寂しそうに笑いながらそう言う。
『エステニアではかなり期待された風使いだったのにな…』
「…風使い?」
『風を操ることができる力だよ…イオには母さんのイジスチールの血と僕のエステニアの血が流れてる…どちらが多く継いでるかわからないけど少しくらいなら力を使うことは出来ると思うよ』
「僕にもエステニアの血が?」
『さ、時間もない…その研究のなかで自分がエステニア出身てことを教えてくれたのはシェオナさんだった』
「!!!?」
『…彼女は氷で二度と溶けることのない中の自分の体を見て「もしも、貴女が科学者ならこれを欲しがるだろう」てね』
「…それは……」
まさか父があの身体に返せなくした張本人なんじゃ…
『そうでもありそうでもない…彼女はどうにかしてこれを守りたいと思っていたんだ…そこで風使いにしかできない封印を僕にかけさせたんだ』
「え…封印って…」
『普通の人間には直に触ることの出来ない封印だよ。その代わり僕がいなければ彼女は自身の身体に帰る事は出来ない』
「…………」
ようやく謎は溶けた。
父さんがエステニアに熱心になっていたのも、ヴォッドさんが僕のところに来たのも、ここに連れてこられたのも…
「僕はどうすればいいの?」
『イオ…シェオナさんの封印を解いてあげてほしい…そしてその身体を風に変えてほしい…』
「身体を風に変える!?」
『きっとまだその目的も意味もわからないかもしれない…けれど、きっと気付くことができるよ』
「…………」
なんだか突拍子のないことの連続で正直頭の中はパニック状態だった。
確かに、今着ているドレスの丈を短くすることは出来た。
でもこれは誰にでも出来ること。
今回は訳が違う。
僕にしか出来ないのだ
『今はきっとイジスチールの白之宮家にあるだろう…僕があまりに帰ってこないことを怪しんだ上の人に僕は殺されてしまった。それどころかシェオナさんの身体を…僕は大きな失態をした…こんな父親でごめん…』
「そんな…」
そんなことは全然なかった…
でも、今の話で少しおかしいところがある。
「でも、その…シェオナさんの腕はもしも目覚めても反抗しないように、切り落とされたって…」
そう、直に触れてしまっている。
ウィリアラームさんはとても激怒していた。
しかし、父さんは首を振った。
『魂の帰る場所は心であり脳なんだよ、イオ』
優しく笑うその笑顔は懐かしさを漂わせた。
「…父さん……」
『さぁ、僕の話せることはたぶんこれくらいだろう…僕も行かなければ行けないからね…』
「え…どこに…?」
『彼方に…だよ…』
ドキリとした…
たぶんこれが最後のなんだ…
『……………×××××××××によろしくね』
そういって父さんは呆気なくきえてしまった。
「××××××××って……………」
僕は父さんのいた虚空をずっと眺めていた。
いつの間にか涙が流れていることも気付かずに…
===
どれほど時間がたったのだろうか?
僕はいまだにだだっ広い草原に立ち尽くしていた。
何故なら、帰り方を知らないからだ。
「僕このまま帰れないかも?」
ポツリと呟く。
僕的には父さんが消えると同時に現世の帰れるとばかり思っていた。
そう言えば僕は風使いらしい。
まさかその力を使って自力で帰ってこいということなのだろうか?
「それはあんまりだろ…」
まず使い方からわからないわけで…
とりあえず何かイメージしてみる。
「…………………うーん」
イメージする対象がすでに「何か」の段階でもうなんにも起こる可能性はなくなる。
「どうしろっていうんだろうか…」
ヴォッドさーん…
助けてよー
帰り方わかんないんだけどー…
「しょうがないな…」
「やっぱりいたんだ?」
「うーん…まぁ、なんだ…うん…」
「相変わらず正直すぎるね」
そうやって笑った。
「帰り方は簡単だよ」
「どうやるの?教えてよ」
「イオがどうしたいのか考えて、それを唱えるだけ」
僕がどうしたいのか…
エステニア…本当の故郷へ…帰りたい
「 Al hejmo…(故郷へ) 」
=========
「おかえり…まさかここに帰ってくるとは思わんかったで…」
心底信じられないという顔でこちらを見る殿下。
そう、そこはヴォッドさんが眠っていた部屋。
先ほどと同じように二人はベッドの傍らににいた。
「それほどでもないですよ」
「一発で帰ってこれるなんてなかなかよ?仮にも何年もエステニアで暮らしていても力の使えないひとなんていくらでもいるんだから」
優しく微笑みながら褒めてくれるウィリアラームさん。
まるでお母さんのようだ…
「………殿下、ウィリアラーム…気を付けろ…」
ポツリ…とヴォッドさんが呟いた。
と、
キィィィィィィィィィィィィィィンンッッッッ!!!!
「!!!!?」
突然、耳をつんざく程の衝撃が身体を襲った。
「なんですか!?これ!」
「結界が壊された……」
つらそうに毒づくヴォッドさん。
先程よりかなり顔色が悪い。
「大丈夫!!!?」
「そうもいってられない…アイツ等が来た…」
「くそっ!俺様の国に二度も入ってくるなんて!」
「優魅…貴方のご馳走がきたわ」
「えぇ…クスッ……」
一番最初に動いたのは優魅さんだった。
含み笑いを最後に一瞬でそこにいってしまったようだ。
「俺等もいくで…」
悪魔のコウモリ羽を羽ばたかせ窓から飛び出した殿下、それに続いてウィリアラームさんも飛んでいく。
ここに残ったのは僕とヴォッドさん。
「彩萠が…やられるとは…」
「僕たちもいきますか?」
「イオ、力の使い方はわかるのか?」
「大体わかったよ…」
そう、生命神さんはかなりお人好しだ。
力の使い方なんて直感でどうにかなってしまうことがよくわかった。
「じゃあ、向かうか」
ただでさえ死神の状態だと色白いというのにいまでは本気で魂を刈ってしまいそうなほど「死神らしく」なっていた。
僕はそんなヴォッドさんにどう返せばいいかわからなかった。
「おーっほっほっほ!!!これでエステニアはワタクシたち翠之宮家のものですわ!」
風に乗り地上に降り立つと辺りは見るも無惨な姿となっていた。
「ひどい…」
「あら、あなた…どなたですの?」
目の前にはあの翠之宮家のライア。
イジスチールの最新兵器「IMS-18」(一応無敵と言われるイジスチール一の戦車)の天辺で仁王立ちしている。
どうやら僕だと気付いてない模様だ。
何故…?
「そりゃ、髪とか私服とか何より今までとはまったく表情が違うからな…」
傍らに降り立つヴォッドさん。
見た目は凄く怖いのだが口調が軽いせいで台無しだ。
しかしそれでも凄味効果は抜群でライアにはかなり怖く見えているようだ。
「な…なんですの!?あなたあのヴォッドリース教授ですわね!?」
なんで確認とるんだ…
逆に呆れてしまった。
「…久しいな、よくも彩萠を消してくれたなぁ、えぇ?」
意外に本気で怒ってるみたいだ。
今まで一本しか出したとこを見たことなかった鎌が今回は三本…
「別にそんな鎌痛くも痒くもありませんわ!」
焦りながらも悠然といい放つライア。
「…そうか」
「!?」
その呟きと共にイジスチール自慢の戦車は呆気なく粉々になった。
うまい具合になかにいた兵士達は傷一つついてない模様。
器用なものだ。
しかし、その器用さはとある人物に無駄と嘲られる。
「ヴォッドリース!貴様甘いわ!はははははっ!!!」
楽しそうに高らかに笑いながら致命傷を負わせるのは優魅さん。
「あれ、殺人鬼なんじゃ…」
「殺されたくなければ黙っといたほうが良いわよ♪」
クスクス笑いながらそんな様子を眺めるウィリアラームさん。
あんたのほうが鬼だ…
「な…なんですの!?や、やってしまいなさい!兵士達!」
ライアの命令で残った兵士たちが一斉に銃を構える。
「それはさすがに… Protekto(守護)! 」
目の前に緑の障壁ができ銃の弾はその障壁に遮られる。
「あんまり僕を怒らせないでよ、ライア」
僕はわざとイジスチール当時の姿に戻りそう告げた。
「!!!!!!?貴女は李生・サヤマ・アキラクス!?まさか、エステニアに寝返ったんじゃ!?」
「悪いけど僕は元からこちらの人間だ」
そう睨み付ける。
「…親子揃ってなんて忠誠心のない人達かしら!?」
「忠誠を誓った覚えはないけどねぇ」
あきれた話だ。
このライアはまさか国民全てが従うと疑わず生きてきたのだろう。
「…イオ、こいつどうする?」
「え?」
「ウィリアラーム、こいつはダメなのか?」
「駄目よ」
見れば生きるもの全てに傷を負わせきったかのように血みどろになった優魅さんをウィリアラームさんはなんとか押し止めていた。
「こっちも片付けてきやったで…」
パンパンと服をはたき埃を落とす殿下。
どうやらあとはライアただ一人のようだ。
「…なんなんですの、あなた達…ワタクシ1700人も動員したんですのよ?」
わなわなと震えながら呟く。
そして、
「こうなったら最後の手段ですわ!あの氷の女性!どうなっても知りませんわ!おほほほほ!」
もう、なにもこだわることはないというように腕を組む。
「卑怯な小娘やな…」
「やっぱりいいわよ…優魅」
二人が同時にライアの背後に回る。
それは駄目だっ!
「…!」
「待てって…」
僕がなにを唱えるべきか悩んでいるとヴォッドさんが二人を止めた。
もう、あと一センチもないところで刃物を寸止めしていた。
当然ライアは動けるはずもない。
「……翠之宮の姫君、命が惜しければその場所まで案内いただこうか?」
「……………っ、わ…わかったわ…」
小刻みに震えながら答えるライアをなんの感情もない瞳で見つめるヴォッドさん。
いったいどういう気持ちでいるんだろうか?
「…ふん、お前は優しすぎるな」
優魅さんは背中に突きつけていた刃物を下ろす。
「じゃぁ、案内せぇや、小娘」
首に当てるナイフを緩めることなく案内を促す殿下。
「…イジスチールの…中央区神楽殿地…ワタクシの学校の最上階ですわよ…」
震える声で、呟くように、そう告げた。
助けを求めるように僕を見つめながら……
「学校の最上階…生徒侵入禁止の階…」
「なるほどな…来い、イオ」
僕は答える間もなくヴォッドさんに抱かれ瞬間襲ってきたのは無重力。
テレポートやっぱり嫌いだなと思った。
?????
「ふむ…困った…」
「なんでさ?」
降り立ったのは屋上。
もう高所恐怖症なんてレベル出はない。
まぁ、僕は何故か風の力が使えている。
そんなわけで微弱に浮いてたりする。
「どうやら魔除けがしてある」
「魔除け………あ!」
そういえば死神だったっけか…
こんな重要なときに…
というかそんな神頼みなもんがイジスチールにあるとは僕には逆に驚きなんだけれど…
「………イオ…」
「わかってるよ、ヴォッドさん」
僕はそういって微笑む。
「………ありがとう…」
僕はその言葉を聞くと下の階に向かう。
その窓はそこだけが黒く覆われ中を伺うことは出来なくなっていた。
無駄なことだ…
「さぁ、片付けの時間だ」
=========
「イオ、大丈夫か?」
気づいた時にはヴォッドさんにめちゃくちゃ心配されていた。
えーと、なにを僕はしていたんだっけ?
そういえば、黒く覆われた窓を見てそれから?
「ヴォッドさん…なんだか明るくなりました?」
「イオがしてくれたんだよ」
駄目だ…全く思い出せない。
僕は身を起こす。
そこは元の屋上…
「なんで屋上?」
「身体は解放してくれたが魔除けはのけてくれなかったからな」
あぁ、なるほど…
「………て、信じると思った?貴女は誰?」
「…へぇ、あたしの幻を信じない人、あんた以外一人しか知らないわ」
「それはヴォッドさんのこと?」
「…いやなムスメだね…」
そう言うと僕から距離をとる。
その人物はこう名乗った。
「あたしはスタニアーニャ。そいつの体、焼き殺してやろうとここに潜伏したっていうのに、なんだかあんたみたいなのみたら萎えたよ。やめた」
そういって手をヒラヒラふる。
「貴女は一体…」
「だ、か、ら、スタニアーニャって名乗ってんの。あんたバカ?まぁ、いいや。ここの雑魚い兵士やら科学者なんか共々睡眠させちゃったからさっさとやることやっちゃいなさいよ。時間もないんだし」
「あ…!」
そうだ、僕はここに来た理由があるんだ。
急いで立ち上がると服に埃がついているのもそっちのけでヴォッドさんの身体に駆け寄った。
「………………………」
それはもう身体とは言えなかった。
どんな惨いことをしたのか数々の空いた穴、無造作に刺された電極コード。
ただ無事だったのは…
僕は父さんに言われたことをイメージしていく。
徐々に目の前に緑の粒子が溢れだす。
いつの間にかその粒子と共に身体は流れていく。
そして最後の粒子が風となって流れて行くのを見ると振り替える。
スタニアーニャはまだそこに立っていた。
「ねぇ、あんた…ヴォッドにはなんて言われたの?」
それは唐突な質問。
「どういう意味です?」
「その力を持つ意味、よ」
力の意味…
「聞いてないの?エステニア以外では力が使えないって」
「それは…言われてみれば…」
元々この力のことは父さんに聞いたものだ。
ヴォッドさんにはなんにも聞いてない。
「なるほどね…それじゃあね」
そう呟くとシュンっという音と共に消えた。
一体なんだったんだ?
何が言いたかった?
いや、僕はなにかを見落としてはいないか?
屋上にはヴォッドさんが座り込んでいた。
しかも、なんだかボーッとしながら。
あんな阿呆面初めて見たよ…
「ヴォッドさん、なんて顔してるんですか?」
「あ…イオ…」
傍らに座り見つめる。
まだ死神のまんま…
正直、この人の本当の姿をみてみたい。
きっと偽ってる訳ではないんだろうけどなんだか腑に落ちない。
「そんなに知りたいのか…?」
たぶんまだ風と同化してないのか存在感は薄い。
なんとなく元気もない。
「知りたいというより、僕に真実を見せてよ…生命神」
「……………………………………」
何故知っているのか、という顔でこちらを見る。
だけどだんだんとその表情は悲しげで切ないものに変わっていく。
「……そっか…イオの父親も気付いてたんだな…」
そう、去り際の『生命神さんによろしくね』。
この言葉で僕はエステニアの力の源である生命神はヴォッドさんなのではないかと思ったのだ。
そしてさきほどの謎の女性、スタニアーニャの言葉がそれを証明してくれたのだ。
「でも、別に俺の本当の姿なんて実際にはないんだよ…」
「どういうことです?」
「この姿が今の俺でそれと同時に本当の姿だ。元々意思の塊でしかなかった俺にそもそも姿なんてないんだよ」
寂しそうに笑う。
「そうだな…でも一番神々しいって、神様らしいって姿をがみたいなら…」
サラサラッと瞬く間にかぜに流される砂塵。
しかし、途方もなく流れていくことはなくまた形を形成していった。
それは………
銀糸のように輝く長髪、全て救済と慈悲をもたらすような3対六枚の白い翼、アメジストのように煌めく瞳、日輪のように差す後光…
「…どう、かな?」
なんだか恥ずかしそうにいう。
シェオナの時は幼くて可愛いイメージしかなかったし、神様なんて思いもしなかった。
だけど、今は綺麗なんて言葉では片付けられないほど美しかった。
「綺麗すぎて文句無しです」
「………ありがと…」
褒められるのが馴れていないのか凄く赤面している。
「なんだか若いね」
「そ…そうかな?」
なぜかもう見ないでくれと言うように顔を背ける。
「…こら」
「う…」
正面に回り込むとヴォッドさんに視線を反らす。
「なんでそんな恥ずかしがるの?」
「うぅ…戻っていい?」
瞳を潤ませながら問うてくる。
可愛いからずっとこのままでいてほしい。
「………わかった」
心読んじゃったよ…
でも事実だからいいかな…
「イオ、これからどうするんだ…」
座り込んでいじいじしながら聞いてくる。
なんでいじけてるんだよ…
僕は隣に座って目線を合わせる。
「ん…?」
「僕はこれからどうすればいいと思う?」
「……どうって」
本当は僕こそが今後どうすればいいのか全然わからなかった。
なにせ、僕自身はエステニアの人間でイジスチールの家は恐らく今回の件でもう入ることなんてできないだろう。
なによりこのなんにもないイジスチールなんかよりもずっとエステニアのほうが素敵だし魅力的なのだ。
「それは、イオのしたいようにしたらいいんじゃないかな?…まだ、始まったばかりだし…」
「どういうこと?」
「…イオはイジスチールを敵にまわしてしまった。実はまだライアはエステニアに捕らわれてる。さすがにこの事態に政府も翠之宮も気付いてるだろう…なにより…」
そこで言葉を切る。
「スタニアーニャも絡んでるなら、厄介だよ」
「………スタニアーニャさんって一体…」
「俺を死神にした張本人だよ」
「…あの人が死神にしたの?」
「うん……俺の罪を忘れないために死神、として生きろって言われたのさ…」
「まさか、その言い付けを守ってきたっていうの!?」
「うん…」
素直でド正直。
なんだかこんな人がスッゴい力の源なんて信じられない…
「ま、それはともかくイオの家…帰れないなら殿下に一軒貰っちゃおうよ」
「一軒貰えるの!?」
「…まだ交渉してないからわかんないけどな…」
「…………」
割りと無計画で発言するんだな…
「それともイジスチールに住む?」
「それは嫌」
絶対。
「じゃぁ、とりあえずエステニアに帰るか…」
よっこらしょっと立ち上がる。
「うん」
そうして一人で初めて飛び立つのだった。
=======
「ただいま」
「姉さんどうしたの!?」
向かったのは殿下の城。
広いレストランのような食堂。
長いテーブルの上座に殿下、そのとなりにウィリアラームさんが座っていた。
「ヴォッド…綺麗やな…♪」
なぜか上機嫌な殿下。
そういえば二人はどういう関係なのか?
少しだけ気にならなくもない。
「ん……ありがと………」
当然ヴォッドさんは赤面するんだけど。
「私としても是非そのまんまでいてほしいものね」
皆々様認めている。
「でも残念ながら今からライアんとこいくからさ」
そういってくるりと回ると黒い死神姿となった。
「確かに、脅しには最適やからなぁ♪」
にやにやと嫌な笑みを浮かべ笑う殿下。
「脅しやしねぇよ…」
呆れたように返すと殿下の横に椅子を出し座る。
「なんでだよ…お前にあんな酷いこと…絶対俺は許せねぇ…」
「あれは彼女の意思ではないだろ」
なにやらライアの今後の処理について揉めてる模様。
僕はウィリアラームさんの隣に座る。
「二人は、仲良いね」
「まぁ、ね…私じゃ間に入っていけやしないわ…」
「そうなの?」
意外とウィリアラームさんは間に入るってタイプじゃないみたいだ。
そんな僕らのもとに優魅さんが来た。
「お嬢様、お茶などいかがですか?」
「いただくわ」
本当に忠実な執事さんだなぁ…
感心してしまうほどの忠誠心…
「あなたも欲しいですか?」
「あ、お願いします…」
「かしこまりました」
そう言うと去っていく優魅さん。
「良い執事さんですね」
「あら、あれは私のものよ?」
警戒するように睨まれた。
まさか色恋関係なのか?
「イオ…」
口論が終わったのか僕の隣にくるヴォッドさん。
「口論終わりました?」
「口論…?なんのことだ?」
「あら…」
他からみたら結構な言い合いに見えたのだけど…
「まぁ、いいや。イオはどうする?俺は今からライアのとこいくんだけど…」
「…………」
どうしようか…
正直言うとあまり会いたい相手ではない。
もともとすごく仲が良かった訳でもないし、かといって嫌うほど彼女のことを知りもしない。
「…まぁ、まだすぐには行かないからじっくり考えてくれたらいい」
「ん…ありがとう……」
じっくりとはいわれても正直簡単な二択。
そこまで考えてもいい答えは出やしないだろう数だ。
個人的にはなにか第三の選択肢がほしい勢いだ。
そんなことを考えていると優魅さんが紅茶をもって来てくれた。
「お待たせいたしました、お嬢様」
銀のトレイにのるのは美しく描かれた花にアンティーク調の金のレリーフ…
そのなかでは赤い紅茶が揺れていた。
「どうぞ」
「ありがと…優魅さん」
「いえ、これが私のお仕事ですので」
そういうと背後に控える優魅さん。
ウィリアラームさんは優雅に一口…
ここまでお茶を飲むだけで様になるひとがいるとは…
そうして僕も紅茶に手を掛けた。
「いやっはー♪ゾクゾクわくわくしますねぇ♪ご主人のカノジョさん♪」
「お前よくそんな長い呼び方続けるよなぁ…」
はぁ…と溜め息をつき声の主にを見やる。
「いやぁ、だって糞面白いでしょ?♪なんだかんだで偉大らしいご主人である殿下でも頭の上がらない強き妻!これを崇拝しない人なんているわけないじゃないですかー♪」
やけに楽しそうにからかう声の主はセルビアさん。
現在僕らはライアの入れられているという牢獄に向かう途中。
結論ついていくことに決意した僕だがそれにはいろいろな経緯があった。
それは約30分前に遡る。
優魅さんにいれてもらった紅茶をすすっていると勢いよく食堂の重い扉が開かれた。
ドパーーーーーンッ
「!!!!?」
飲みかけていた紅茶を吹き出さないように必死に堪えながら扉の方に目をやるとそこには金髪のウェーブがかった髪をしたメイドが仁王立ちしていた。
「なんや…えらい騒がしいやないか…セルビア」
殿下はそんなメイドであるセルビア・メギンスに呆れ、めんどくさそうにいった。
「いや、聞いてくださいよご主人!あの小娘この私に向かって無礼をけしかけたのですわ!」
「…お前がメイドだからじゃないか?」
「ご主人には従ってもあんな小娘に従うかよ阿呆。あー、腹立つ。ご主人、そういうわけで動き封じて仕事放棄してしました」
「仕事しろよ!」
ずりっと転びながらセルビアを見やる殿下。
そんな言葉を完全無視しセルビアさんは違うことに興味を向けていた。
「あぁ!なんですか新入りの誰かですか!?うわぁ、どうも私セルビア・メギンスです」
そういって僕の前に詰め寄る。
めちゃくちゃ近い。
「ど…どうも…」
思わず後ずさる僕。
「いやぁ、あれですね。こんなビビり今時いないっての。面白いじゃん♪私のおもちゃになってよ」
さっきから言ってることがめちゃくちゃだ。
「困ってるんだ?いい気味♪」
すごく性格悪い気がしてきた。
「セルビア…そこまでにしとけ…」
「ご主人のカノジョさん♪でもこの女すっごく弄りやすいんですよ!?これで遊ばず何で遊べというんです!?」
「遊ぶ前提で話進めんなよ…」
流石のヴォッドさんも言いくるめられはぁと溜め息をついた。
このメイドはよくメイドなんかになれたものだ。
明らかに日本語が通じてはいない。
こんなメイドを雇った殿下は相当心が広いのだろう。
感心してしまった。
「それよりもセルビア、あいつはちゃんと見張っておけ。ついでに能力も消しときや」
頬杖をついてやる気なさそうに相告げる殿下。
「えー、じゃあせめて誰かきてくださいよー…私ムカついて殺しちゃいますー」
なんて短気なんだ…
というかこの世界は割りと簡単に命を扱いすぎやしないか?
僕のいたイジスチールじゃ絶対取り調べに受けるだろう。
「わーった。俺がいくよ…本当はもう少し後にいく予定だったんだがなぁ…」
ぽりぽりと頭をかきながら名乗り出るヴォッドさん。
つまりは本当に殺しかねないということか…
「僕もいきます」
「え、ビビりもくるの!?ご主人のカノジョさんはわかりますけどぉー、なんであんたが?」
明らかに嫌そうに口を尖らせる。
まったく感情表現が豊かすぎて困るもんだ………
「僕にはイオって名前がある。そんな呼び方しないでもらいたいね」
「……………へぇ、なかなかビビりのわりにはプライドあるんだねぇ…」
「それと、一応同じ国の人間なので。別についていくのに関して不自然ではないでしょう」
そういってセルビアさんを見据える。
「ふふっ…あなたがそこまで言うなら構わないわ。ねぇ、イオ。あなたがどんな力の持ち主なのかは知らないけど私に勝てるとか思わないでね?」
そういって不気味に笑うと殿下に向き直る。
「ご主人、そゆわけで全然やる気ちゃんたちいませんけど仕事に戻りますねー」
「当たり前だ。阿呆かお前は…」
「いやー、ご主人ほどじゃ…てへ☆」
そんなセルビアさんを殿下は睨んだ。
ふむ、なにも言い返さないあたり大人なのかも…
「じゃぁ、いくか……」
そういって立ち上がったヴォッドさんを先頭にライアの元に向かうプチ冒険が始まった。
なにが大変って……
「そうそう、イオ。ここの地下毎回道変わるから何時間かかるかわかんねーんだわ」
らしい。
「ご主人の彼女さん♪」
「なんだ?」
「すいません、道間違えちゃいました☆」
迷路の変化にはあるパターンがあるらしい。
なんでも殿下本人はあの見た目でとてつもなく頭が良いらしいのだが馬鹿な部下がたくさん迷子になったためそのパターンを減らしたという話だ。
そして恐らくこの目の前のセルビアさんも馬鹿の一人と言えるだろう。
「ヴォッド…この人信じた僕らの責任だよ…」
「そうだな…」
嘆息し頭を抱える。
「えー、ご主人の彼女さんヒドイですよー」
「まぁ、いいか…頭かせ、セルビア」
そう言って額に手を当てるヴォッドさん。
すると黄色の光がセルビアさんの額から流れる。
いつも緑色なのに…?
「さ、終わったぞ」
「なにしたんです???ご主人の…」
「ヴォッドだ…お前さんの中にあるこの迷路に関する記憶を見せて貰った…」
言いながら腕を組み考えだすヴォッド。
「なんとかここ出れるの?僕たち」
ヴォッドなら絶対信用出来るから聞くまでもないんだけど一応確認をしてみた。
「まぁな…うん、5つ前で間違ってるな」
「あれー、、、そんな前に間違ってました?」
「お前気付いてたろ?」
呆れたように言う。
「そこまでバレちゃってるんです!?さっきの能力恐るべきですねー」
全然恐れてない感じでいう。
この人は一体何を考えているのか全くわからない。
「ヴォッド。この人危険な人かもしれないよ?」
僕は躊躇なく思ったことを述べた。
どちらかといえばこの人に人権は不要と考えたから。
デリカシーないと言われてしまえばそこまでではあるけど…
「危険というか遊ばれてるだけだぜ…」
苦笑しながらそう言うヴォッド。
「なんか余計嫌な人ですね…」
「まぁまぁ、こいつも牢獄の番人ばっかりしててつなんなかったんだろ、きっと…」
「そうですよー、このか弱い私を一人牢獄なんかの番人なんて…あんなむさくてでかいのを相手になんて出来ませんよぉ…」
相変わらずわざとらしい人だ。
この人のことだからきっとか弱いなんてありえないだろう。
「まぁまぁ、迷ってないっていうのもバレちゃいましたしささっとあの女のとこいきましょ。そのあと遊びましょうよ、ご主人の彼女さん」
そういいながら5つ前の分岐点へと戻っていくセルビアさん。
どうしてこんな適当なんだろう?
その前にどうしてそんな嘘をついたのだろう。
僕のセルビアさんに対する不信感はただただ募るばかりだった。
「イオ…その気持ちもわからないではないが…彼女はそういうものが必要な環境で育って来ているんだよ…あまり彼女を責めるもんじゃないさ」
そういってヴォッドは耳打ちしてきたけど、正直そんな環境というものを知らない僕にはどうにも理解することは出来なかった。
「何してるんですかー?はやく行きましょうよー」
誰が時間を伸ばしてるかわかっているんだろうか?
僕は呆れてただただため息を溢した。
「あ、溜め息一回で幸せ一回減るんだよ?イオはそんなことも知らないの?」
クスクスと笑うセルビア。
どうしてこの人はこんなに僕にいちゃもん付けてくるんだ。
「もしも幸せが減ったならそれはセルビアさんのせいだよ。僕はなにも悪くないね」
「私のせい!?この罪なんて縁のない私が!?」
「そうさ。君が時間ロスの原因だろう。ちがうかい?」
「…なんかむかつく。ご主人の彼女さん。やっぱり先にこいつやってもいいです?」
そういって戦闘モードに入るセルビアさん。
ざわっ……
とてつもない殺気が僕の肌に鳥肌を浮かばせた。
「お前らいい加減にしろ…」
そんな僕は身動き出来ない無言のにらみ合いの間に手をヒラヒラとふって割って入ったヴォッドさん。
「いまからだったのに…」
「……………」
余裕綽々だったのにと、不機嫌に呟きながら髪を髪をかきあげるセルビアさん。
そんな彼女とは対照的に僕はその場にへたりこんでしまった。
「大丈夫か?」
ヴォッドさんに手を差しのべられようやく我にかえる僕。
「あ……はい……すいません」
なんて情けないんだろうか?
僕はセルビアさんの殺気だけに負けた。
そう、ただの殺気に…
いままで殺されるかもなんて思いもしないことだった。
当然だ。
イジスチールはお偉いさんたちが納めてる。
逆らえば母のように一生日の光を見ることのない地下へと落とされる。
今となっては本物の太陽ではなかったと知ってしまったが…
とにかくイジスチール国民は全て監視されていたのだ。
そんな人々には政府に対する恐れしかなく殺気などよもや縁のない場所だった。
ここは環境が違いすぎる。
「つきましたー♪ご主人の彼女さん、後で遊んでくださいね♪」
ニコニコと笑顔で牢の鍵をあけるセルビアさん。
そのなかには蒼白で怯えきった顔で微動だにしないライアがいた。
「……固まっている」
「私の能力だよ。動きを止める、ね。安心しなよ。肺、心臓、喉、胃とかの内臓は動くのを許可してるんだから」
そういうセルビアさんはライアの喉元をつつく。
「ふん、こんな小娘の首なんか取ったって自慢にもなりやしないね」
呟き鍵を閉めパチンと指を鳴らす。
「ぁっ………!!!!?」
するとガクッとライアが肩を落とした。
「はぁ……………はぁ………」
「………」
まるでずっと息を止めていたかのように苦しそうに肩で息をするライア。
「馬鹿な小娘。これで私の恐ろしさがわかった?」
腕を組みライアを睨み付けるセルビアさん。
「…な………なんなんですの………この国の国民は……」
「そのまんまだよ」
「李生っ…………」
「ライア…君はどうする?僕はあんな機械仕掛けの人間味のない国なんかには帰らない」
「機械仕掛けで人間味のない?あたりまえですわ。あの国は白之宮のためにあるような国ですもの…かくいうワタクシでも白之宮には逆らえませんのよ…」
そういうと少し落ち着いたようで冷静になにか考え始めた。
「ワタクシは今すぐにでもここを出たいですわ。第一このワタクシがなぜこのような薄暗い場所に閉じ込められなくてはなりませんの?」
キッと僕を睨むと続ける。
「あなたもあなたですわ。よくもそんな信用出来ないような教授にひょいひょいと付いていけたものですわね」
「僕はこの国の国民だった。それを気付かせてくれたのは間違いもなくこのヴォッドさんだ」
「でも、最初は知らなかったのでしょう?」
「確かに。でも僕は自分の立場にさえ疑問を持っていたのさ」
「立場?」
そう、両親共に愛国心なんてあったもんじゃなかった。
母親は地下の住人、父はエステニア出身だ。
そんな境遇にも関わらず…だ。
「僕はきっと政府にとっては邪魔だったんじゃないかと思うんだ」
僕はそういうとヴォッドさんに目配せした。
正直僕なんかと話を続けたところで何がどうなるわけでもないのだ。
「もう少し話をしてもらおうか…」
「その前にワタクシをここから出しなさい」
「黙れ小娘。あんたが命令できる立場じゃないことくらい自覚しな」
「ひっ………」
おそらくライアはセルビアさん恐怖症だろう。
完璧に逆らえない状態だ。
「臆病なくせに生意気な小娘ね」
ニコニコと笑いながらパキパキと指を鳴らす。
見ていて思うことはヴォッドさんはかなり大切にされているんだなぁということ。
「すいませんっ……もう生意気なこと言いませんわっ………」
ガタガタと震えながら青ざめるライア。
これだとほぼ話にならない。
ヴォッドさんは呆れているしセルビアさんは楽しんでいる。
そう、話にならないのだった。
「殿下、一部屋かりていいか?」
迷路からズルして抜け出し(テレポートで)地上に戻った僕らは殿下に部屋を借りるべくリビングに戻ってきていた。
「部屋を?俺たちのいるこの間ではいけないのか?」
「そこに脅迫だけをし続ける輩がいるからな…」
そういいセルビアさんを一瞥するヴォッドさん。
なるほど、確かにそれは言えてる。
「えー、そんな言い方しないでくださいよぉー」
当然寂しそうに口では言うが表情は面白がっているようにしか見えない。
「…なるほどな、わかった。隣の部屋を使いな」
軽くいうと鍵を投げてきた。
なかなかやっぱり話がわかるひとだ。
「ありがと」
パシッと鍵を掴みにこっと笑うヴォッドさん。
うん、この笑顔だけはなんともいえない……
……ん?なに考えてるんだろう、僕…
「じゃあいこうか?」
傍らで一言も発しないライアを誘い廊下に出る。
「はぁぁーーーー……なんなんですの、あの威圧感は…」
出た瞬間脱力。
「そんなに緊張してたの?」
「あの女だけは苦手ですわっ!人生で初めての屈辱と恐怖の両方をワタクシに味あわせた魔神ですわ」
魔神…なるほど、わからなくもない。
「あいつが魔神とあっちゃ殿下に切り殺されるだろうなぁ…」
カチャリっと鍵をあけながらいうヴォッドさん。
「切り殺される!?」
「どういうことですの!?」
「…………仲いいなぁ…お前さんたち…」
「「誰が!!」」
そのハモりをさらりとながし先に部屋にはいっていってしまった。
「イオ…あなたあまりワタクシに被らさないでくださいまし」
「それはこっちの台詞だよ」
お互い様ということをやはり証明してしまい、ただただ溜め息を漏らす僕らだった。
仕方なく先に部屋に入る。
そこは部屋全体が青同系色で埋められ、金の装飾品に囲まれたアンティークの調度品や時計、ランプで埋まる生活感などない典型的な客室だった。
「すごい…」
思わず呟いてしまった。
後から入ってきたライアも息をのんでいた。
「まぁまぁ、二人とも。感動するのはわかるが落ち着いて座ってからにしな」
そう言って苦笑するヴォッドさん。
彼はすでに椅子で寛いでいた。
僕たちはいろいろな調度品をきょろきょろと見回しながら進められた椅子に座る。
さぞ、リスのように見えただろう…
「……さて、改めてこんなに落ち着いて話をするのは初めてだな、ライア」
「そうですわね…ヴォッドリース」
「やっと教授じゃないと認めてくれたんだな」
そういってククッと笑う。
「貴方があんな大きな鎌振り回してワタクシの部下を殺したんですもの…認めるしかありませんわ」
「まてまて、俺は決して殺してないって…」
慌てて修正するヴォッドさん。
そりゃそうだ…この人生命生む側なんだから…
そういえばライアはそれを知らない。
たぶん僕にもいう気はなかったんじゃないかとおもう。
「…あの状況で一番怖かったのは貴方ですわ」
訝しげにヴォッドさんを見つめるライア。
どうやら目の前にいたヴォッドさんを目に止めるだけでいっぱいいっぱいだったのだろう。
それほどこの前のプチ戦(ライアにしてみれば戦争レベル)で緊張していたようだ。
「そうかい…まぁ、気迫くらいはあったかもな…」
「ヴォッドさん…」
「……それよりも、さっきの話の続きなんだが…」
「えぇ、水晶の話ですわね」
「あぁ、大事にしていてくれてるんだとしてもやっぱり返して欲しいんだ」
そういって姿勢をただす。
ふむ、スタイルがいいからなのかかなり格好よく見えてしまう。
「…それはお父様に聞いてみないとわかりませんけれど……どうしてそこまで必要と?」
光るだけの水晶、というだけあって、面白いものではあるがそこまで必要とする意味がわからない。
そんな感じの言い方のライア。
かくいう僕も今の情報のなかでは特に重要とは思えない。
「………あれは、このエステニアの中央部・カシアブルナという雪山で大切に守られてきたものなんだ」
「かしあぶるな…?」
「そういえば、僕まだあんまりエステニアの土地とかよくわからないや…」
「そうだったな…じゃあまずエステニアについて語ろうか?」
「まず、エステニアは上空からみてほぼ五角形の形をしている」
それを皮切りにヴォッドさんのエステニア口座は始まった。
「中央部に年中氷と雪で覆われた土地、カシアブルナ、今俺たちのいるこの屋敷…人々が集中的に暮らす西部・キジャ、各世界からの入り口でありライア君と戦いイオと最初に入った洞窟のある南部・オスティナ、同じく殿下とは別の支配者のいる東部・ハウガディナ、そしてここの屋上から伺える大湖・タタニャがある北部・ナナニャイガ」
「ここの屋上から?」
「湖って?」
ここではイジスチールの基礎知識などなんにも役にたつことはなく、湖というものも教科書でしかみたことはない。
「………湖っていうのはだな…湧水なんかの淡水のたまった場所みたいなとこだ…」
「淡水…海なんかとは違うんですの?」
「あれは塩分が混じった海水だよ」
「僕はそんなのみたことないな…」
「ワタクシもですわ…」
「ならあとで屋上にいってみるか…」
にこやかに笑うと僕らはなんだか顔を見合わせた。
「「いいの!?」」
勢いよく聞く。
ここまで気が合うと親友にでもなれそうだ。
「とにかく、その湖はあとでみるとして、その水晶はここエステニアの中央部・カシアブルナに代々伝わる水晶なんだ」
「そうでしたの…なんだかいけないものを取ってしまいましたわね…」
ここで恐らく初めて自信のなくしたライアをみた。
もしかしたらこの子はとんでもなく素直なのではないか?
「…それはあまり他国にあるのはよくないんだ」
「どうして…?返して貰わなければならないなんていう決定はしないの?」
「どちらかといえば、この国にあれば宝の持ち腐れだろう…でも、それがたまにいいこともあるんだ…」
「どういう…?」
「………………それは、聞かないほうがいい…」
「なんですのそれ…」
それは確かに気になる…がヴォッドさんのいうことはまず正しい。
世界で一番信用出来るともいえる。
いまだにこの人に謎が数多くあったとしても、だ。
「わかった…ヴォッドさんがいうならその通りだろうね」
僕はライアと違う返しをした。
「なんですの、そこまで信頼してましたの?」
「そういう意味ではないけどね、たったこの短い時間でもすぐに信頼出来てしまうほどの絶対感があるんだよ…」
そう答える僕に意味がわからないという目を向けるライア。
確かに僕にも信頼出来ない期間があったためすぐに信じろなんて言うつもりはない。
「まぁ、ヴォッドさんといればきっとわかってくるよ」
「よくわかりませんわね…」
感嘆すると首を降る。
言いたいことは充分わかるんだけどね…
そうおもいながらヴォッドさんの顔を伺う。
「どうだろう?僕の言うことあってるよね?」
「おぅ…たぶんな…」
照れ臭いのかそっぽをむくヴォッドさん。
素直な人ばっかりだなと思うと思わず笑いが出てきてしまった。
「さて、問題はどうやって返してもらうか…なんだな…」
「そうだね…」
「お父様…なかなかてに入れた物は手放してくれませんもの…なによりかなり気に入ってらっしゃるもの…」
はぁ、と溜め息をつくライア。
確かに金持ちはなかなかてに入れた物を手放しすことはないきもする。
「とりあえずイジスチールにいくしかないか…」
ぼそっと呟くヴォッドさん。
「僕は行きたくないな…」
「…………」
「どうしてですの…?」
「もう家なんてないしね、なにより友達なんてものもいないし、追われてるのに代わりはないだろう?」
「あ…」
そう、僕は仮にも逃亡者でこの目の前にいるライアから逃れていたのだ。
「…そうですわね…きっと政府はまだ貴女を探しているに違いありませんわ…」
そうして暗い表情をするライア。
「同情かい?」
「…………ワタクシだって別に貴女を嫌っているわけではないんですのよ?」
「それはどちらかといえば好きっていってるのかい?」
「……………わかりませんわ」
からかってみた言葉だけに逆に返答に戸惑ってしまった。
てっきりライアならまず顔を赤面させ「自惚れないでくださいましっ!」とかいうかと思っていたからだ。
「貴女方、一般庶民が考えているほど二等級家の感覚は現実離れしてませんのよ?」
どう言うことなのだろうか?
二等級家は莫大な財産と能力のなかにおいて絶対である白之宮の加護を受けていると聞いたことがある。
当然それは勿論翠之宮も含まれるわけで…
「君はかの金融の翠之宮の人間だろう?感覚だって当然普通ではないと思っていたけど…」
「そうですわ…確かに金銭に関しては普通ではありませんわ…けれどそれ意外は普通ですのよ?決して人でなし、と言うわけではありませんの…」
そういうとふぅ、と息をはいた。
「ワタクシをみる回りの目は明らかにワタクシ自身ではなく、翠之宮という家系や金融、二等級家…そんなものばかりでしたわ…その目がいやでワタクシ庶民なんてただの政府の足場でしかない、と思い生きて来ましたのよ」
「…なるほどな………金持ちの家に縁かけたりご関係になれればいつか金融関係のおこぼれでももらえるんじゃないかってやつだな…」
「…………」
「そうですわ……ワタクシの性格などただのケチな女としか認識されていないでしょう…」
つまり友達などいなかったと言っているのか?
僕のなかでは常にいろんな可愛い女の子たちに囲まれそのリーダーのように指示を出している、そんなイメージしかない。
僕はチラリとヴォッドさんのほうをみた。
「……………つまり、翠之宮の姫君…君は何を望んでるんだ?」
僕の視線に気付いているにも関わらずスルーしたヴォッドさん。
「…………ワタクシを認めてくれたのは家族…そして貴方とイオ………あなた方だけですの…だから、なにか力になりたいですわ」
そう言いきると僕をみた。
「とくにイオ…貴女とはお友達になりたいですわ…」
なにか泣いてしまいそうなそんな瞳で僕を見るライア。
「え……?」
あまりに突然の展開に僕の頭の回転は停止し困惑した。
「なにいってるんだい?僕はそもそもなんにも取り柄などなくて、いいこともなくて、親だってイジスチールから見れば反逆者も同然。そんな両親を持つ僕なんかと仲良くしたらどうなるかなんて目に見えているでしょ?」
僕は一気にまくし立てた。
そう、もともとそういう環境と境遇で生きてきた。
だから友達が出来ないのも当然、よもや一人でいることが当たり前。
だからこう提示されたとき僕にはただの罪悪感しかのこらない。
「それでも、ワタクシには貴女のように普通に接してくれる方が必要なのですわ」
「…………………」
僕はどうすればいいのだろう?
チラリとヴォッドさんをみるとなんだか難しい顔してなにか考えている。
「ごめん、その答えは保留させてもらって構わないかい?」
僕は正面からライアを見据えた。
「…わかりましたわ……」
ふぅ、と息をはくライア。
「…………話、まとまったかい?」
どうやら話が切れるのを待っていたらしかったヴォッドさん。
考えてたんじゃなくまってたのか…
なんだか申し訳なくなってしまった。
「えぇ、構いませんわ………それより…」
「あぁ、俺は今から翠之宮の姫君…君のお父さんのところに向かおうと思ってる」
「そうですわね…ワタクシも一緒に行かせてくださいな」
「ふむ………いいのか?俺なんかを連れて行っても…」
「構いませんわ…今更ですけど…イオ…貴女が言った言葉の意味がわかった気がしますの」
「え?」
「教授のこと話せばわかるってやつですわ」
「………信用のこと?」
「えぇ、この方、素直過ぎますもの」
そういって笑う。
「ワタクシお返事待ってますわね」
にこりと微笑むと立ち上がりヴォッドを促す。
「それではワタクシ、戦ってまいります」
その言葉を最後に僕は一人残されたことに気付いた。
なにをする、という訳もなくただ、僕はここにいても仕方ないと思い部屋をでた。
二人がなんとか話をつけてくれるとのことだし、元々一般庶民の僕にはついていけない会話のないようだった。
それならばこの際このエステニアの自然を堪能しようじゃないか、という結論にいたったわけである。
とりあえず、ライアのためにとイジスチール時のハイテク(エステニアからみれば)な制服から本来のあり方、であろう桜色のセミロングに前よりすこし短めの動きやすいドレスへと姿を変えた。
「お、どっか行くんか?」
丁度廊下で殿下とすれ違い散策しようとしていることを告げると地図をくれた。
「ありがとう」
「あまりキジャから出るなよ?特にカシアブルナにはあまり近づくな」
「…うん、わかった」
そんな忠告をうけ別れる。
とりあえず中庭の一角で地図を広げてみる。
先ほどヴォッドさんが教えてくれた通り、エステニアは五角形の形をしていた。
それぞれいろいろな施設や役所など地方のなかも細かく記載されていた。
だが、そんな丁寧な地図だからこそわかる違和感があった。
それは忠告を受けた中央部・カシアブルナ。
「なにこれ…」
カシアブルナだけは全くの白紙。
それどころか国でありながら国の中ではないと、そう主張してるようにさえ見える。
何よりも赤い太文字で書かれた「立ち入り禁止」の文字。
普通に考えて何かあるとしか思えない。
しかし、あんなに強い殿下でも行くなっていうなら多分本当にいかないほうがいいかもしれない…
僕はそんな危険なカシアブルナから目を離し殿下に言われたキジャと言う文字に目を向けた。
こうみるとキジャ自体はそれほど大きい土地ではない。
そういえばここに来たとき殿下は偉い人と聞いたけどそれはもしかしたらキジャの中だけなのかもしれない。
だからキジャ以外に行くなと言ってくれたのかも…?
そんなとを思案していると少し興味のでる場所を見つけた。
それは「展望台」。
ここの屋敷からそう遠く離れていない様子。
「お散歩に行きますか…」
扉を開く。
来たときはいっぱいいっぱいでゆっくり眺めることは出来なかった庭園が目の前に広がる。
そこはいままでの僕にとってはおとぎ話に出てきそうな風景。
「こんなことになるなんて想像も出来なかったよ…」
僕は今さらながら携帯を取り出してみた。
もちろん電波は圏外。
そんなことはお構い無くカメラを起動。
うん、この景色、壁紙決定。
僕は壁紙に設定し門をくぐる。
来たときはあんなに物々しかった兵隊さんもにこやかに挨拶してくれた。
門の先には市場。
そういえばここで戸惑ってる時にウィリアラームさんに拾われたんだっけ…?
うん、そうだ…
僕は思い出の中のウィリアラームさんを思い出す。
そういえば、神様とか…
確かに不思議な力はもってたけど…
つよいのかな?
というか、戦ってるのは常に優魅さんだった。
どんな執事なんだか……
ふぅ…と息をはくと市場を見やる。
うーん、ほとんど野菜とか魚みたい。
工芸とかあればみたのに…
改めて地図を見る。
展望台への遊歩道はどうやら屋敷の塀伝いにあるようだ。
僕は地図を片手に脇道にそれる。
脇道には色とりどりの「薔薇」の花が咲き乱れていた。
「凄い…これが本物の薔薇…」
美術の時間に模造品の薔薇を見ながら絵を描かされたことがある。
色は赤い薔薇だけだったけど美術の先生は他にも様々な色があると言っていた。
なるほど…
ここまで華やかな花だとは思いもしなかった。
僕はそうっと触ろうとして、やめた。
なんだか花には触れてはいけない気がしたのだ。
こんなに健気咲いている花を汚したくなかった。
気を取り直し僕は歩を進める。
花は煉瓦に這うように蔦が絡まり煉瓦は花壇のように薔薇が広がっていた。
そこはずっと先まで延びていて煉瓦の反対側は手すりがついており少しずつ上り坂なっているのが見てわかる。
僕は黙々とその坂を登っていく。
たまに町の人とすれ違う。
どうやら展望台はみんなの交流の場にもなっているみたいだ。
きっととても美しい所なんだろう。
そう思うと段々と歩も進み心が弾んだ。
こんなにわくわくしたのは何年ぶりなんだろう?
逆にいままでどれ程つまらない人生を歩んできていたのかが想像できる。
何一つ面白い事などなかったんじゃないかと思うほどに…
いつの間にか展望台付近に着いていた。
そこは展望台らしく開けていて青い空が広く顔を覗かせている。
僕は歩を早め近づく。
段々と展望台の広場が広がり中央に時計台があるのが伺える。
広場のベンチでは優しそうな母親と可愛い子供達が楽しく会話したりはしゃいでいたり。
とても和花な光景だった。
いいなぁ…
僕は母親の記憶はほとんどない。
きっと暖かいんだろうな…
そして展望台へと向かう。
そこからは……
「わぁっ…………凄い……」
そこからはキジャの町、殿下の屋敷、そして緑の森の奥に広がる砂漠と…
「イジスチール…?」
肉眼でギリギリ見える距離に…
ドーム型のガラスの塊。
それは遠くて小さくて…
でも思ったほど離れてなくて、頑張れば歩いてでも行けるかもしれない…なんて思うほどの距離。
「こんなに近かったなんて…」
ここに来るまではおとぎ話でそんなものあるわけない、なんていうことを考えて思って教え込まれて…
けれど自分の目で確かめるとそれは思った以上に近くて当たり前で…
「本当に……政府に管理されて来たんだね…僕達は…」
そう、現実とは程遠いものを教え込まれて来ていたんだ。
「なにしんみりしてるんですか、年寄りじゃあるまいし…」
「………!」
いつの間にか僕の傍らには優魅さんがいた。
「優魅さん…驚かさないでくださいよ…」
「…声をかけても返事がなかったじゃありませんか」
「そうだっけ…?」
いつの間にか僕はぼーっとしていたようだ。
しんみり、ともいうのだろうか?
その辺は少し曖昧な気もする。
「いいですね、エステニア…僕も生まれた時からずっとここにすんでいたらよかったのに…」
彼方で小鳥たちがさえずる。
「……君はここが大分気に入っているようだね」
優魅さんはそんな僕に微笑む。
「当たり前じゃないですか…こんなに正気で満ち溢れて素晴らしい場所なんですから」
「なるほど…」
それだけ言うと僕と同じ方角を見る。
「とりわけここが気に入っている訳じゃあないんですけどね…」
「え……?」
なんだか切ない、でもなにも感情の入らなかった言葉に僕は思わず聞き返してしまった。
しかし、優魅さんはそれに答えることなく展望台の手すりから離れると
「日がくれる前には屋敷に帰って来てくださいね」
そう告げると颯爽と帰っていった。
一体なんだったんだろう?
というか、何故ここにいたのだろうか?
僕は一人小首を傾げると再度遠くに見えるイジスチールを見つめる。
と、突如としてイジスチールのガラスの塊を満たすように瑠璃色の光が輝いた。
「え、?」
あまりの美しさと驚きで声を漏らしてしまった。
「……なんだったんだろう……今の……」
僕は瞼を擦りもう一度イジスチールをよくみる。
しかし、その光はすでになくなっていて元の無機質なガラスの塊に戻ってしまっていた。
「見間違い…?」
何もなかったように通常に戻ったそれは何だか僕の心を寂しくさせた。
そういえば、ヴォッドさんたちはどうしているんだろう?
水晶がどうとかいっていたけれど…
「ま、いっか……」
そうして僕はまた町を眺める。
この時に、僕はある重大なミスをしていた…
それに気付くのはずっとずっと後になってしまったんだ…
?????
数年の時が過ぎたとき、もう立ち上がる気力のなかったその足は、あのエステニアに踏み込んだときのように軽やかにステップを繰り返す。
いつぶりの地面の感触、頬撫でる風の香り……
緑の絨毯は風に靡く。
そして僕は世界の真実にたどりついたんだ………________